・正真正銘中二病だった頃に書いていたモノの最終章です、折角なのでこの場を借りて投稿します
・なので流れはかなり唐突ですが、理解が追いつくよう頑張ります
・簡単なあらすじと背景の説明を最初に入れます
・音ゲー「DanceDanceRavolution」が題材ですが、DDRの描写は多分ほとんどありません
簡単なあらすじ
ゲームセンター『ココイチバン』はDDRにおいては県内屈指のレベルを誇っており、中でもバイト代の殆どをDDRにつぎ込む大坂浩志、バナナの皮や発煙筒を駆使して相手を妨害する逆井、スコアラーとしては群を抜いていた姿勢鈴は良くも悪くも一目を置かれていた。
彼らは『ココイチバン』の中で幾度も対戦に興じるが湊も逆井も一度も姿勢に勝つ事は叶わなかった。
そして、6年が過ぎた―
MMDDR
「ミクスドマーシャルDDR」の略称。妨害を前提としたバーサスプレイで、一部地域で何故か流行り出した。
逆井はスコアラーとしての実力は中の上程度だがこのルールを利用して名を挙げた。
しかし―
「ぁっ」
刈谷は上背が姿勢より低い分、筋量で上回る。ガードの上からでも彼女のパンチは効いていた。
グラつく姿勢は苦し紛れにサークリングするが、刈谷はそれを許さない。
姿勢が回り込み刈谷が逃げ道を塞ごうと向き直ったこの時、密着状態だった間合いが少しだけ開いた。
向き直っただけの刈谷に対し、姿勢はわずかとはいえ実際に距離を空けている。
刹那の隙を縫う様に、刈谷の身体の側面を沿う様に描かれた一筋の線―
刈谷透子の右側頭部で、乾いた破裂音がした。
ぱん!
姿勢が左脚を抜くと同時に、刈谷は力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
レフェリーがダウンを宣告すると、リング外から驚きと戸惑いが入り混じったざわつきが広がっていく。
姿勢は少しよろめきながらもニュートラルコーナーへと下がり、実況は「刈谷が倒れました」「ダウンのようです」「レフェリーはダウンをとりました」といった言葉を並べている。
状況を理解していたのは姿勢本人と、レフェリーと、セコンドと、姿勢の側から観戦していた会場の何人かである。
(…!!なんで…倒されてる…でも、そんなに深くは…ない…)
戸惑う刈谷ではあるがカウントとダメージを確認しながら立ち上がる、セコンドの奥野が何やら叫んではいるので頷いて見せた。
レフェリーが試合再開をコールした後、姿勢は一気に仕留めにかからない。
刈谷の状態を確かめるかのように牽制のジャブとローキックを放ち、一つは外され、一つは当たった。
これを見て姿勢が一歩前に出ると同時に刈谷が飛び込む―虚を突いた様に右のスウィングフックを放つが姿勢はこれをブロックするに留まる。
第2R終了のゴングが鳴った。
第3Rが始まった。
姿勢が遠距離から精度の高い牽制で試合を組み立てる展開は変わらないものの、ダメージのせいか刈谷の足取りが重い。
そしてその差は時間の経過とともに開いていった。
1分半が経過した頃には刈谷の右脇腹や両腕は赤く腫れ上がっていた。
対して姿勢は額に汗が滲んでいるものの表情は変わらない。
刈谷もまた、姿勢にないモノを確かに持っていた。
それは若さであり、人を惹きつけるスター性であり、何よりデビュー時点で土壌がある程度整っていた。
―「あの時点で明らかに勝敗は濃厚だった事と、それでも刈谷 の眼に諦めの色が見られなかった事は、もしかするとお互いの持つもの持ちえぬものが起因していたのかもしれません」
後に姿勢は試合をこのように語っている。
ともあれ、試合の流れは「どっちが勝つか」ではなく「いつ仕留めるか」までに傾いていた。
それでも決まらなかった原因は刈谷の粘りと、そして姿勢に躊躇があった事にある。
第4R―
姿勢鈴は試合前に相手のビデオを観ない、目を合わせる事もない。
故に、今自身から一方的に打ちのめされている相手が何を考えているのか、何故それでも立ち向かってくるか、この場合どうしたらいいかがわからない。
勿論プロとしては全力で叩き潰すことは当然の礼儀であり言葉の上では姿勢自身も理解してはいたが、これまでの彼女の流儀やキャリアは実感を許さなかった。
姿勢はこのラウンドでも仕留めることができなかった。
第5R。
刈谷のダメージは深刻だった。
姿勢のジャブが入ったと同時に奥野からタオルが投入された。
姿勢は仕留めることができなかった。向き合うこともできなかった。
刈谷透子は担架で運ばれ、市内の病院へ直行する事となった。
後日、精密検査の際に姿勢も同病院に向かうと、彼女は入院していた。
「大丈夫です。よくわかんないですけど、後遺症とかそんなんはないですから…はい…」
刈谷は右腕にギブスを付けていた。
試合中盤以降、ミドルキックが多くなったのは姿勢も覚えている。
姿勢は何も言えなかった。
「アタシ、こうなっちゃったのは本当に気にしてないんです、アタシが弱かっただけですから…」
気を遣われている、と姿勢も感づいていた。
恐らく後遺症がないというのは本当だろうが、姿勢もそれ以上は聞けなかった。
そして何も答えることができなかった。
この日、姿勢鈴は女子キック界から姿を消した―
4th STAGE―
―もしもあの時、仮に自身が逃げずに王者であり続けたら、もしかすると、もしかすると復帰した刈谷とリングで相対した道もあったかもしれない。
そんなことは今さら考えても意味はないし、何の罪滅ぼしにもならない。
しかし、一つだけは言える。
「勿論私も、今降りるわけにはいかない―」
既に場は整っていた。
曲がりなりにも「大会」と銘打たれている。
いつも通り筐体はある。
相手もそこにいる、邪魔者は勝手に退いている。
「へえ…珍しいじゃねーか!」
姿勢からすれば心なしか大坂が嬉しそうに見える。
しかし大体いつもそうだったことを思い出し嘆息した。自覚はないが姿勢もまた逆境に心が躍っている。
そして自然と姿勢は口を開いていた。
「じゃあ大坂、決勝戦ね」
「は?」
「『出たい奴だけ残れ』って言ったのはアナタでしょ」
「そ、それは…」
一旦向き合えばその時点で簡単に降りる事は許されないのだ。
姿勢がそれを知っているように、大坂もまた理解している。
常連組からすれば異様な光景である、初めて姿勢から仕掛けて いる。
だが他県組は狼狽しきっているし、常連組で大坂と姿勢に割って入る者はそうそういない。
彼女の提案は存外に落としどころとして間違っていなかった。
「お、おう!やってやんよ!」
大坂は上半身の衣服を脱ぎ捨てた。
「うおおっ」
いきなり判明した真実、いきなり始まった決勝戦、いきなり始まったある意味恒例のカード。
姿勢の側から挑まれたとあってはいつもとは事情が違う、この日の大坂の脚はキレていた。
流れる矢印は黄金の点滅を繰り返している。
元々妨害があろうとなかろうと自分からは起こさないままDDRに励んできた彼には最高の環境でもあった。
―しかし、姿勢もまた一分の隙を作らずシーケンスを捌き続けていた。
あの時できなかった事を、相手を変えて果たした所でそれは自己満足でしかない。
しかしあの時と同じではないからこそ前へと進むことができる―そんな想いもまた自己満足である。
大坂は自己満足の機会を今までずっと与え続けてくれていた。感謝を込めて、この男を叩き潰す―
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―How to CONCLUSION
エントリー32名。
棄権者30名。
参加者2名。
優勝者・姿勢鈴。
これが6年前、ココイチバンで行われた最後のDDR大会の結果である。
FINAL STAGE―the Rejection why sweet and sweet
あれから6年が経った。
道場を後にした大坂はココイチバンへ足を踏み入れていた。
6年も経てば変わるものはいくらでも変わる。
「バイバイ!DDRのお姉ちゃん!」
「ばいばい」
あれだけ並んでいた対戦台、ビデオゲームは激減し、体感ゲームやクレーンゲームが増えている。
そして、DDRもまた確かにそこにある。
「…ん?」
大坂は妙な既視感を覚えた。
DDR筐体から数歩分後ろへ振り返ると確かに見覚えのある女性が片膝をつき、小さな女の子に手を振っていた。
いや、見覚えがあるどころではない。もう6年も経っているのにほとんどあの頃のままである。
女性が立ち上がってから大坂は声をかけた。
「姿勢さん…大坂、です…お久しぶりです」
「お、大坂!」
「ここじゃないかと思って、それで…」
「お互い、老けたね…」
「いやアナタが言うんですかそれ!」
姿勢は三十路手前とは思えないほど若々しいが、何故か着飾っている。
ベージュのドレスで首にはネックレス、髪はアップでまとめられており、ヒールを履いている。
大坂にとってはある意味で好都合であった。
「そういえば刈谷選手、今度タイトルマッチみたいっすね」
「ええ?」
「は?」
「あ、そうなんだ…うん…そっか…」
安堵の表情を浮かべる姿勢ではあるが、大坂は思いの外に困っていた。
『気まずい』という概念は6年前の時点で二人には介在しなかったはずである。
しかしだからといって逃げるわけにはいかない。大坂の脳裏にふと葛の言葉が過った。
「ねえ姿勢さん、さっきの子供と仲好さそうでしたけど…よく来るんですか?」
「…だったら何?」
姿勢の表情が険しくなった。
「久しぶりに勝負してくださいよ…新作出ましたし『DDRのお姉ちゃん』なんでしょ?」
「大坂…」
姿勢が今にも殴りかかろうとする寸前で大坂はさらに言葉を投げかける。
「姿勢さんが勝ったら、どこでも好きな所に連れて行きます」
「…はあ?」
わずかに困惑した表情を浮かべた姿勢だが、やがて「なるほど」と一言置いて一考する。
「うん…今まで私が勝った事しかないと思うけど…その条件だと大坂が一方的に不利じゃないの?」
「だから、俺が勝ったら、これを受け取ってください…」
「うん…はあ~…」
大坂が大事そうに抱えていた手提げ袋から青いケースを取り出すと、姿勢は目を閉じて俯いた。
俯いた姿勢は大きく息を吐いた。
その様子は何かが解けたようでもあり、何かに受け止められたようでもあった。
「どうっすかね?」
「私、ヒールなんだけど…」
「それ脱げばいいじゃないですか」
「この人、『脱げ』って言ってくる!」
「いやいや…」
大坂は苦笑いを浮かべている、姿勢は笑っている。
物事に決着をつける方法は様々である。
ベストの方法に辿り着く事もあれば、そうならないケースもある。決着の場に至れぬ事も少なくない。
どこに辿り着くかもわからないし、どれだけ時間がかかるかもわからない。
2人のDDRerに一旦の収まりが着いた所で、この話は幕である。
DearlyDearlyRejection-筐体上の魔術師-
おわり
くぅ~疲れました!オーナー支援ありがとうございました!
どう考えてもわけわかめな内容ですしブログに載せる気にもなりませんでした、かといってこのまま放置するのも勿体ない気がした次第でございます。
乙
地の文がリアルでなかなかよかったゾ
ありがとナス!