建ったら書く
――振り返れば、楽しい時もあり、険しい道もあった。 けれど、素晴らしい旅だった。
故郷に帰ってきた今でも、時折目を閉じて、冒険の日々を思い出す。
色付き文字 色付き文字
その度に、白衣を脱ぎすて、スポーツウェアを着ようと試みる。 その度に、リュックを引っ張り出してボールやら薬やらを一気に詰め込む。
暫くして、私は椅子に凭れ掛かる。 『旅をしたい』と言う心に反し、体は震えだす。
体は、もう追いついていないのだ。 老いぼれた体を必死に動かそうとするが、骨は軋み、口は震え、腹の奥の方から何かが蠢き、何かが込み上げてくる。
ふと、机の上に置いてある、セピア調の古ぼけた写真が視界に入る。
あぁ…… 私は、何かに蝕まれ、頭痛が絶えない頭を必死に回転させる。
節目というのか、潮目というのか。 とにかく、今が"それ"なのだ。
「ふっ、ふっ!」
俺は、どでかい段ボール箱を小走りに運んで行く。 重いんだよ……何が入ってんのか、ってくらい。 しかも、中から声がするし。
「じいちゃん! 運び終わったぞ!!」
「おぉ、ゼレナー。ご苦労じゃったな。」
この人は俺のじいちゃんで、オーキド・ユキナリって言うんだ。 有名な学者で、世界にも通用するほどの技術を持っている。
「それでは、メラーを呼んできてくれ。」
「はぁ!?」
メラーは俺の幼馴染で、今日、俺と一緒にポケモンを貰う、いわば『ライバル』だ。
「まー、分ったよ。呼ばないとポケモン貰えないんだろ。」
「当り前じゃよ。」
じいちゃんは、そう、笑顔で言い放つ。 ……
行ってきますか。
色付き文字
~メラーの家~
雑草を掻き分け、大きく踏み出しながら歩く。 全くと言っていい程手入れのされてない、人を通す気もない玄関周り。 ここを通るだけで、かなり苦労するのだ。
やっと呼鈴のある場所にたどり着き、プッシュ。 ピンポーン、と、軽い音が鳴る。
「はーい、なんですかー?」
がちゃり、ドアの開閉音と共に、女の人が出てくる。
「すみません、メラーいますか?」
「メラーならさっきオーキド博士のところに行ったわよ?」
……入れ違いじゃないか。
「ありがとうございました……」
「あなた、今日から旅に出るんでしょ? あの子をよろしくね」
そんな事をいうとともに、すぐにドアを閉められてしまった。
「はぁ……なんでまた入れ違いなんかに……」
まぁ、そのこと自体は嫌じゃない。嫌なのは、この雑草の中をまた歩いていくことだ。
~研究所~
「うぃー……やっと着いた……」
「おぉ、遅かったじゃないか、ゼレナー。」
「……ふっ……」
……明らかに、馬鹿にしてるだろ?
「まぁいい。今日はお前たちにポケモンと図鑑を渡すことが目的だ。」
「お、早速か!!」
「やったぜ。……」
「さぁ、この3匹の中から一匹選ぶのじゃ。」
そう言って、じいちゃんは机の上に一つずつモンスターボールを置いていく。
炎のポケモン、ヒトカゲ。 草のポケモン、フシギダネ。 水のポケモン、ゼニガメ。
「へぇ……いっぱいいるんだなー……」
「おい、メラー! お前、先に選んでいいぜ! 俺は大人だからな!」
「……」
俺がそう言うと、メラーは無言で研究所の回復機の方に歩いていく。 そして、回復機に収まっているボールを手に取った。
「……僕は、こいつにするよ。行け、ピカチュウ!!」
「ピッカァ!」
投げたボールは空で弧を描き、中から黄色いポケモンが出てくる。
なーるほど、そういう事か。
「な……それはさっき捕まえたポケモンじゃ……」
「じいちゃん、俺はこいつにするぜ! 行け、イーブイ!」
腰に装着してあるボールセットに手を掛ける。 そして、いつもよりも気合を入れ、ボールを投げる。
「ぶいぶーい!!」
「……ゼレナーは……イーブイか……昔から仲良かったもんな……」
メラーは笑みを浮かべる。
「わ、ワシの用意したポケモンは……」
「後から送ってくれよ!!」
「そんなことよりさ、バトルしようぜ、メラー!!」
「そうだな……」
「お、おい……ここは研究所の中じゃ! 研究資料が……」
机の上のボールが、『カタン』と揺れた。 そして、中からヒトカゲとフシギダネが出て来る。
「かぎゃ!?」
「だね……」
そいつらは、なぜか俺たちの方を見ている。 『早くバトルを始めろ』と、促しているかのように。
「……じゃ、俺から行くぜ。覚悟しろよ、メラー!!」
「望むところだよ!」
「イーブイ、体当たりで相手の体勢を崩せ!」
「ぶぃい!!」
イーブイはダッシュし、相手の足に滑り込みを決める。
「ぴぃ……っか……」
「ピカチュウ、起死回生!!」
ピカチュウは、重心の傾いた体を素早く立て直し、助走をつける。 そして、目にもとまらぬ速さでイーブイに突っ込んで行く。
「うぉ!! イーブイ、避けろ!!」
「ぶい!?」
咄嗟にイーブイに避けろと指示を出すが、速すぎて、避けられなかったようだ。 かなり、強い。
「クソッ! イーブイ、もう一度体当たり……」
「……ふふっ」
何故か笑っているメラーと、反応を示さないイーブイ。 どういう事だ……?
「イーブイはね、麻痺してるよ。」
「え……?」
イーブイの周りには、微かに光が飛び散っている。 いや……光ではなく、『静電気』と言った方が、正しいのかもしれない。
「ぶぃぃ……」
「イ、イーブイ……」
「さぁ、イーブイはご自慢の俊敏さが抑えられちゃったね」
体当たりは相手に接触する技。 そして、相手のピカチュウの特性は接触する攻撃を受けると、偶に麻痺状態にする『静電気』。 何てことだ。もう少し早く事態を把握していれば、こんなことになる前にどうにか出来たかもしれないのに……
そうこうしている内に、メラーは指示を下している。
「ピカチュウ、八つ当たりだ!」
ピカチュウは加速態勢に入り、どんどん勢いを上げてこちらに向かってくる。
何か…… この状況を打開する策は――
そうだ!
「イーブイ! その場で堪えろ!!」
あらん限りの力を込めて、必死に叫ぶ。
「い、いぶぅ!!」
動けないなら、動かなければいい。 かなり体力は削れているし、耐えられるかどうかも分からない。 ただ、『堪える』を使えば、その限りではないのだ。
「ピカチュウ! 今すぐ止まれ! きっと攻撃が来る!!」
「ピカァ!? ピィィカピカァ!!」
ピカチュウはまるで『勢い付けちゃったから止まれないよ!』とでも言うかのように反応する。
次の瞬間、身体同士がぶつかり合った重い衝突音が戦場(研究所)に響く。
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――振り返れば、楽しい時もあり、険しい道もあった。
けれど、素晴らしい旅だった。
故郷に帰ってきた今でも、時折目を閉じて、冒険の日々を思い出す。
色付き文字
色付き文字
その度に、白衣を脱ぎすて、スポーツウェアを着ようと試みる。
その度に、リュックを引っ張り出してボールやら薬やらを一気に詰め込む。
色付き文字
色付き文字
暫くして、私は椅子に凭れ掛かる。
『旅をしたい』と言う心に反し、体は震えだす。
体は、もう追いついていないのだ。
老いぼれた体を必死に動かそうとするが、骨は軋み、口は震え、腹の奥の方から何かが蠢き、何かが込み上げてくる。
ふと、机の上に置いてある、セピア調の古ぼけた写真が視界に入る。
あぁ……
私は、何かに蝕まれ、頭痛が絶えない頭を必死に回転させる。
節目というのか、潮目というのか。
とにかく、今が"それ"なのだ。
The first chapter journey
「ふっ、ふっ!」
俺は、どでかい段ボール箱を小走りに運んで行く。
重いんだよ……何が入ってんのか、ってくらい。
しかも、中から声がするし。
「じいちゃん! 運び終わったぞ!!」
「おぉ、ゼレナー。ご苦労じゃったな。」
この人は俺のじいちゃんで、オーキド・ユキナリって言うんだ。
有名な学者で、世界にも通用するほどの技術を持っている。
「それでは、メラーを呼んできてくれ。」
「はぁ!?」
メラーは俺の幼馴染で、今日、俺と一緒にポケモンを貰う、いわば『ライバル』だ。
「まー、分ったよ。呼ばないとポケモン貰えないんだろ。」
「当り前じゃよ。」
じいちゃんは、そう、笑顔で言い放つ。
……
行ってきますか。
色付き文字
~メラーの家~
色付き文字
雑草を掻き分け、大きく踏み出しながら歩く。
全くと言っていい程手入れのされてない、人を通す気もない玄関周り。
ここを通るだけで、かなり苦労するのだ。
やっと呼鈴のある場所にたどり着き、プッシュ。
ピンポーン、と、軽い音が鳴る。
「はーい、なんですかー?」
がちゃり、ドアの開閉音と共に、女の人が出てくる。
「すみません、メラーいますか?」
「メラーならさっきオーキド博士のところに行ったわよ?」
……入れ違いじゃないか。
「ありがとうございました……」
「あなた、今日から旅に出るんでしょ? あの子をよろしくね」
そんな事をいうとともに、すぐにドアを閉められてしまった。
「はぁ……なんでまた入れ違いなんかに……」
まぁ、そのこと自体は嫌じゃない。嫌なのは、この雑草の中をまた歩いていくことだ。
~研究所~
色付き文字
「うぃー……やっと着いた……」
「おぉ、遅かったじゃないか、ゼレナー。」
「……ふっ……」
……明らかに、馬鹿にしてるだろ?
「まぁいい。今日はお前たちにポケモンと図鑑を渡すことが目的だ。」
「お、早速か!!」
「やったぜ。……」
「さぁ、この3匹の中から一匹選ぶのじゃ。」
そう言って、じいちゃんは机の上に一つずつモンスターボールを置いていく。
炎のポケモン、ヒトカゲ。
草のポケモン、フシギダネ。
水のポケモン、ゼニガメ。
「へぇ……いっぱいいるんだなー……」
「おい、メラー! お前、先に選んでいいぜ! 俺は大人だからな!」
「……」
俺がそう言うと、メラーは無言で研究所の回復機の方に歩いていく。
そして、回復機に収まっているボールを手に取った。
「……僕は、こいつにするよ。行け、ピカチュウ!!」
「ピッカァ!」
投げたボールは空で弧を描き、中から黄色いポケモンが出てくる。
なーるほど、そういう事か。
「な……それはさっき捕まえたポケモンじゃ……」
「じいちゃん、俺はこいつにするぜ! 行け、イーブイ!」
腰に装着してあるボールセットに手を掛ける。
そして、いつもよりも気合を入れ、ボールを投げる。
「ぶいぶーい!!」
「……ゼレナーは……イーブイか……昔から仲良かったもんな……」
メラーは笑みを浮かべる。
「わ、ワシの用意したポケモンは……」
「後から送ってくれよ!!」
「そんなことよりさ、バトルしようぜ、メラー!!」
「そうだな……」
「お、おい……ここは研究所の中じゃ! 研究資料が……」
机の上のボールが、『カタン』と揺れた。
そして、中からヒトカゲとフシギダネが出て来る。
「かぎゃ!?」
「だね……」
そいつらは、なぜか俺たちの方を見ている。
『早くバトルを始めろ』と、促しているかのように。
「……じゃ、俺から行くぜ。覚悟しろよ、メラー!!」
「望むところだよ!」
「イーブイ、体当たりで相手の体勢を崩せ!」
「ぶぃい!!」
イーブイはダッシュし、相手の足に滑り込みを決める。
「ぴぃ……っか……」
「ピカチュウ、起死回生!!」
ピカチュウは、重心の傾いた体を素早く立て直し、助走をつける。
そして、目にもとまらぬ速さでイーブイに突っ込んで行く。
「うぉ!! イーブイ、避けろ!!」
「ぶい!?」
咄嗟にイーブイに避けろと指示を出すが、速すぎて、避けられなかったようだ。
かなり、強い。
「クソッ! イーブイ、もう一度体当たり……」
「……ふふっ」
何故か笑っているメラーと、反応を示さないイーブイ。
どういう事だ……?
「イーブイはね、麻痺してるよ。」
「え……?」
イーブイの周りには、微かに光が飛び散っている。
いや……光ではなく、『静電気』と言った方が、正しいのかもしれない。
「ぶぃぃ……」
「イ、イーブイ……」
「さぁ、イーブイはご自慢の俊敏さが抑えられちゃったね」
体当たりは相手に接触する技。
そして、相手のピカチュウの特性は接触する攻撃を受けると、偶に麻痺状態にする『静電気』。
何てことだ。もう少し早く事態を把握していれば、こんなことになる前にどうにか出来たかもしれないのに……
そうこうしている内に、メラーは指示を下している。
「ピカチュウ、八つ当たりだ!」
ピカチュウは加速態勢に入り、どんどん勢いを上げてこちらに向かってくる。
何か……
この状況を打開する策は――
そうだ!
「イーブイ! その場で堪えろ!!」
あらん限りの力を込めて、必死に叫ぶ。
「い、いぶぅ!!」
動けないなら、動かなければいい。
かなり体力は削れているし、耐えられるかどうかも分からない。
ただ、『堪える』を使えば、その限りではないのだ。
「ピカチュウ! 今すぐ止まれ! きっと攻撃が来る!!」
「ピカァ!? ピィィカピカァ!!」
ピカチュウはまるで『勢い付けちゃったから止まれないよ!』とでも言うかのように反応する。
次の瞬間、身体同士がぶつかり合った重い衝突音が戦場 に響く。