二
卒業式前に突然花音からLINEがきた
「今度、〇〇に引っ越すことになったの」
「え?」
不意を突かれたわたしは無意識のうちに返してた
前から噂で、遠くの大学に通うことは知ってたけど、本人に聞いても、笑ってはぐらかすだけで、教えてくれなかった
「ごめんね」
「風香を悲しませたくなかったから」
いつも本心を隠す癖もわかってた
雪乃にいじめられて、ノートを破られた時、わたしに借りて、課題を一日で終わらせてた
そして、心配するわたしに優しく微笑んで、ノートを返してくれた
今でも覚えてる、隅に小さく書かれたありがとうの文字を──
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三
──「ごめんね」
わたしは震えながらLINEを送った
画面は水滴で歪んでた
ノートを返したあの日、わたしは、風香の前で意識をなくした
そのまま救急車で運ばれたらしくて、目が覚めたのは無機質な部屋だった
横で点滴がぽたぽたしてた
点滴が終わったあと、先生は、神妙な顔して言った
「精密検査をしましょう」
わたしはなんの事かわからなくて、任せるままだった
後から来たお母さんも焦った顔をしてた
次の日、検査の結果を聞いた
目の前がゆがんで、世界が真っ暗になった
四
「大丈夫だった?」
「わたしの前で倒れて大変だったよ笑」
心配だったわたしはその日の夜にLINEを送った
未読無視だった
父親の怒声でわたしの心配はかき消された
またお酒がなくなったらしい
未成年にお酒を売ってはいけない…って社会の先生は言ってたけど、世の中はそんな甘くはない
わたしは今日も泣きながらお金を握りしめて闇の中を歩いてた
LINEもしずかだった
3日後、休んでた花音が学校にきた
病みあがりだっていうのに彼女はいつも通り元気にニコニコしてた
「LINE、見てないでしょ?」
安心したわたしは笑いながら言うと、「わすれてた!」って照れ笑いを浮かべながら既読つけた
そして言った
「ごめんね、だいじょうぶだよ」
五
お互いの息の音が聞こえそうなくらい静かな教室で、黒髪の少女たちは深いキスをしていた
「ほんとに、いいの?」
「だいじょうぶだよ」
花音の優しい微笑みも今となってみると恐ろしくなる
でも、後戻りはできなかった
わたしたちは、名残惜しい教室を後にして、暗い廊下を進んで、階段をのぼった先にある、白く光った窓から屋上に出た
そこからは、自分たちの育った町がよく見えた
病院のビル、お父さんのいる家、お母さんの職場……
わたしたちは屋上のフェンスが壊れていることを知っていた
しっかり手をつないで、小さくつぶやいた────
六
黒髪の少女たちは手をつなぎながら眠っている
その表情はとてもしあわせそうだ
辺りは花畑になっていて、さまざまな花が咲いていた
とつぜん、近くの木に止まっていた二羽の青い小鳥たちが日をめざして飛んでいった