仏教のお話

無量義経:説法品第二 / 5

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ダルマ太郎 2024/06/03 (月) 14:17:09 修正

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性相空寂(しょうそうくうじゃく)
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性相とは、真理と事象のことです。性とは、不変平等絶対真実の本体や道理のことで、相とは、変化差別相対の現象的なすがたのことです。中国でいう「理事」と同じような意味です。真理と事象とは離れているのではなく、真理は事象によって観ることができ、事象は真理によって仮に存在します。「性」とは性質、「相」とはその性質が表に現れた(すがた)のことだという解釈もありますが、性相空寂という場合は、真理と事象のことです。
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空とは、シューニャ śūnya の訳です。「欠如」「空虚」「膨れ上がった」という意味です。たとえば、空瓶というと中に入るべきものが入っていないことであり、空席というのは人が座っていない状態です。このように日本語にも空の概念はあります。大乗仏教で空において否定されるのは自性です。自性とは、スヴァバーヴァ svabhāva の訳で、素質・本性・固有のあり方・本来のあり方という意味です。水が水であるための、火が火であるための本性のことです。大乗仏教では、そんな自性を否定して空を説きました。一般的には、自性という言葉はあまり使われず、実体ということが多いようです。空とは、「実体の欠如」のことです。

空である根拠は、事象が因縁によって有るからです。因と縁との和合によって生じるのですから、個々には実体は有りません。水が氷にもなれば、水蒸気にもなるのは、水に水としての固定した実体が無いからです。もし水という実体が有れば、いつまでも水として有り続けるので、氷にもならないし、蒸気にもなりません。種が発芽し、成長して花を咲かせ、実を作るのも、種に種としての実体が無いからです。実体が無いから、発芽し、花を咲かせ、実をつけます。水が氷にもなり蒸気にもなるのは、温度との関係です。水と温度との因縁によって変化しています。種も水や温度・養分との関係で変化しています。そういうように因縁を結べるのは、個々に実体がないからです。大乗仏教では、一切法空、諸法空、五蘊皆空と言って、すべての事象には実体が無いと説いています。すべてなので、それには例外はありません。因縁によってあるものは、すべて空です。
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寂とは、ニルヴァーナ nirvāṇa の訳です。煩悩の火を消した安らかな境地のことです。涅槃とも訳されます。涅槃とは、一切の因縁を結ばない境地なので、因縁によって作られるものではありません。

空とは、実体がないことであり、寂とは因縁がない状態のことです。因縁がないので変化はありません。実体がなく、因縁を結びませんので、大小という特徴は認識されず、生じるとか滅するという変化もありません。とどまることもなく、動くこともなく、進むことも、退くこともありません。「猫が歩いている」と言っても、猫という実体がないのであれば、歩くという行為はありません。一切は無量無辺の虚空のように差別・区別はなく無際であり、一切は一つであると観察することが勧められています。

空の理を深く観察することによって、一切には差別・区別は無く、無分別だと知ることができます。無分別を覚ることが智慧であり、智慧を完成させることが覚りです。最高の覚りを得ることができれば、成仏にいたります。よって、空を覚ることは、仏教において最重要な行です。
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性相は空寂であると説いています。真理においても、現象においても、空であり、涅槃の状態だというのです。一般的には、現象世界は迷いの世界であり、苦に満ちた状態だといいますから、涅槃とは逆です。龍樹菩薩は、世間と涅槃は同一であると論じています。
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中論観涅槃品第二十五より
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涅槃与世間 無有少分別
世間与涅槃 亦無少分別

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涅槃は世間と少分の別も有ること無く
世間は涅槃と亦た少分の別も無し

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na saṃsārasya nirvāṇāt kiṃcid asti viśeṣaṇam |
na nirvāṇasya saṃsārāt kiṃcid asti viśeṣaṇam ||19||

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輪廻には涅槃との区別は全くありません
涅槃は輪廻と少しの区別もありません

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訳経僧の鳩摩羅什は、輪廻を世間と訳しています。原文では、サンサーラ saṃsāra ですので輪廻です。輪廻する世界を世間と言いますので、鳩摩羅什はそのように訳したのでしょう。一般人にとっては、輪廻する世間と涅槃の境地は同じとはいえませんが、出世間法においては同じだというのでしょう。つまり、出世間的真理です。または、第一義諦・勝義諦・真諦ともいいます。真理には二種があります。俗諦と真諦です。俗諦とは、世俗の真理であり、世俗の言葉で表せる真理です。真諦とは、絶対なる真理であり、言葉では表せない真理です。無量義経・法華経では、俗諦と真諦は重視されています。
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性相空寂
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