仏教のお話

輪廻 / 4

6 コメント
views
0 フォロー
4
ダルマ太郎 2024/05/16 (木) 14:34:52 修正

:
輪廻は概念
:
インドの有名な論師に龍樹がいます。龍樹とは、インド名のナーガールジュナ Nāgārjuna の中国語訳です。ナーガは龍の意で、アルジュナは、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の主人公の一人の名前です。それを樹と音写しています。龍樹は、空の理を論じて、多くの仏教徒に影響を与えました。そのことから、大乗仏教の祖と呼ばれています。

龍樹の有名な論書に『中論』があります。詩の形式で、空の理を論じています。その中で、「縁起の法を空と説き、これを仮名となし、またこれを中道の義とする」と論じています。
:
:
論書)
衆因縁生法 我説即是無
亦爲是假名 亦是中道義

:
:
訓読)
衆因縁生の法を 我れは即ち是れ無なりと説き
亦た是れ仮名なりと為す 亦た是れ中道の義なり

:
:
サンスクリット)
yaḥ pratītyasamutpādaḥ śūnyatāṃ tāṃ pracakṣmahe|
sā prajñaptirupādāya pratipatsaiva madhyamā||18||

:
:
太郎訳)
多くの因縁によって生起する事象を空だと説きます
また これは名称によってのみ仮に有り
また これを中道の義だといいます

:
:
漢訳をしたのは鳩摩羅什です。鳩摩羅什は本来「空」と訳すべきśūnyatā(シュニャター)を「無」だと訳しています。これを誤訳だという人がいますが、おそらくは、わざとそのように訳したのでしょう。なぜなら、空と訳すと「有・空の中道」だという誤解が生じるおそれがあるからです。龍樹の示す中道は、「有・無の中道」です。しかし、中国では、「有・空の中道」だと解釈しましたので、龍樹の論じていることとは異なります。

因縁によって生じるものには自性(実体)がありません。これを空といいます。空にも実体は有りませんが、人々を導くために、あえて空という言葉を用います。つまり、空というのは仮です。仮に有るので「有」であり、実体が無いので「無」です。これを非有非無の中道といいます。

ここに出てくる「仮名」とは、プラジュニャプティ prajñapti の訳です。「仮の設定」という意味です。仮設・仮説・仮名などと訳されますが、現代語に訳すと「概念」です。実体がないので、ただ付けらた名称によって存在するものです。事象は因縁に依るので実体は有りません。これを私たちは空と言います。しかし、実体は無くても、名前として、概念としては有ります。この有るでもなく、無いのでもないことを中道と言います。すなわち、有無両辺のどちらにも偏らない見方です。

縁起によるものは、すべて概念です。言葉によって表すことはできますが、実体はありません。輪廻もまた概念です。事実として有るのではなく、概念として有ります。輪廻を信じている人の頭には輪廻が有り、信じていない人には輪廻は有りません。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天という境界、業・解脱なども、信念がつくっている幻です。
:
:
輪廻は概念
:
:

通報 ...