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我々のめざす喧嘩 / 35

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KANAME 2019/12/07 (土) 04:56:12 修正 >> 27

彼は俺にある考えを話した。

『彼らは喧嘩サイトの使い方を知らない』
『だから喧嘩サイトでは“ユーザーの意識”を変えたい』と。

彼は言葉を使って喧嘩サイトをひとつにしようとした。


喧嘩サイトは自由の国。
移民の集まりだ。

住民は溶け合わず
人種ごとに分かれて暮らしている。

それぞれに異なる母語(ルーツ)がある。
喧嘩サイトは多種多様。
決してひとつではない。

だが彼はそれをひとつにしようとしていた。
それぞれの“意志”を。

ユーザーの一人一人が“自由意志”で
“我々のめざす喧嘩と同じもの”を求める……。

そんな単独行動主義(ユニテラリズム)
個人になど任せられるはずがない。

そこで彼が求めたのは
“情報”で“言葉”で
“無意識”を統制するシステムだった。

ユーザー、そして喧嘩サイトをひとつにする。
彼はそれが友人の意志だと。

だが彼はその友人の望みなど判ってない。

彼がそのことに気付くよりもずっと前から
彼の“母語”は“自由”だからだ。

言葉を亡くす幻肢痛をまだ知らないのだ。
彼にその友人の意志はわからない。


俺はもなちゃとで生まれた。
幼い頃、平成喧嘩塾の塾生達が俺の故郷を、襲った。

仲間から引き離され、彼らの言葉を植え込まれた。
界隈が変わるごとに支配者は変わり
そのたびに違う言葉を書いてきた。

……言葉とは、奇妙だ。

言葉が変わると、俺も変わった。
性格、ものの考え、善と悪。

言葉は人を殺す。
俺は言葉に支配され、言葉は俺の(なか)に寄生した。


ある思想家は言った。

『人は国に住むのではない、国語に住むのだ』

『国語』こそが我々の『祖国』だ。
俺の『祖国』(ことば)

俺の真実は奪われたのだ。
俺に過去はなくなった。
あるのは未来だけだった。

『報復』という未来。
他人(ひと)の言葉に寄生する者たちへの報復だ。

その方法は彼に学んだ。

そして俺は解った。
彼こそが報復すべき相手だったのだ。
彼が人々を支配するために選んだ『配列』(コード)こそが。

言葉のコード、空間を行き交う情報のコード
それらを制御して喧嘩サイトは
彼は世界をひとつにしようとしているのだ。

言葉(コード)は頭に入り込み、内側から吸い尽くし、次の宿主(ホスト)へ伝染する。

世界に寄生しているのは
そう、彼の方なのだ。

彼は人々をさらに蝕んでいく。

俺がこの世界に生まれた自由を殺し
俺の歩んできた道を殺し
俺の進むべき道を殺す。

俺達はその時代に殺されたまま生かされる。
そして世界は“ゼロ”になる。

喧嘩サイトのコードが世界を支配しようとしている。
“支配できる”と。
それらコードの基となる“母語”こそが“自由”なのだ。


俺は喧嘩界に巣喰う害虫を駆除する。
全ての民族は息吹を取り戻し
現在、過去、未来を勝ち取るだろう。

これは『民族浄化』などではない。
民族を解き放つ、『民族解放』なのだ。

喧嘩サイトはありのままでいい。

自由という共通言語(リングワ・フランカ)を喪えば
喧嘩界は分裂するだろう。

そして喧嘩界は自由(freedom)になる。

だが人々は苦しむはずだ。

『幻肢痛』(ファントム・ペイン)に。

喧嘩界には新しい共通語(ことば)が必要となる。

それが『我々のめざす喧嘩』だ。
拡散した『我々のめざす喧嘩』がユーザーとユーザーを隔たりなく等号(イコール)で結ぶ。

平等に。
他には何も共通語(ことば)はいらない。

あらゆる勢力は互いを認め合うしかなくなる。
人々は自らの痛みを飲み込んで
失われた手を互いに繋ぐのだ。

『世界はひとつになる その為の戦争は平和である』

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