【第一回】
サーヴァントバトルコロッセオ!それは英霊たちの戦いの場である!!
大勢の観客たちがそれぞれが推す英霊を応援し盛り上がっている。英霊たちの勝敗には多額の賭け金が飛び交いこの戦いを市民たちにとってよりスリリングなものとしている。
さて、もうすぐ最初の試合が始まることとなる。
二人の英霊が闘技場に姿を表した。
片方は漆黒の鎧に身を包んだ騎士である黒の騎士ペルカード。ランサークラスのサーヴァントだ。
もう片方は一転して綺羅びやかな宝石や細やかな装飾が施された黄金の鎧に身を包むアーチャークラスのサーヴァント、リディア王クロイソスだ。
果たして対象的な二人がどう戦うのだろうか。観客たちが見守る中、試合が始まった。
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先に動いたのは黒の騎士ペルカードの方だ。彼はその手に持つ漆黒の槍を構えながら相手に向かって駆け出す。
対するリディア王は右手を掲げ、そこから幾つもの金色のコインを空中に放り投げる。コインはくるくると回転しながら宙に浮かび上がる。次の瞬間、コインが光を放ち始める。眩く輝く金貨たちは一斉に空へと舞い上がりペルカードの頭上から降り注ぐ。
だがそんな攻撃もものともせず、黒の騎士は突き進む。
一方のリディア王の方はというと左手から今度は大量のコインを取り出しそれを自分の周囲にばら撒いた。
すると地面に落ちたコイン達がまた再び輝き始め、そこから矢のような光線を放つ。
上空からの無数の光線の雨に晒されながらも、黒の騎士はその足を止めない。
そのまま一気に距離を詰めると、手にした槍を突き出した。
対するリディア王もその身に纏う鎧の一部を変化させた盾を構える。
ガキンッ! 両者のぶつかり合う金属音と共に、一瞬の拮抗が生まれる。
しかしすぐに両者は互いに距離を取る。
続いて仕掛けたのは黒の騎士ペルカードだ。彼は両手に構えた槍を振り回し、まるで舞うように連撃を叩き込む。
それに対してリディア王はその場を動かず、ただひたすらその攻撃を受け止めるのみ。
やがて痺れを切らしたのはペルカードの方であった。
「ふんっ!」
彼は大きく飛び退き、手にしていた槍を投げ放つ。
彼の手を離れたそれは一直線に飛び、相手の胸元を狙う。
それに対しリディア王が取った手段はシンプル極まりないものであった。なんと自らの剣を抜き放ったのだ。
リディア王の剣は飛来してきた槍を打ち払い、そのまま振りかぶって投げ返す。
予想外の反撃を受けて体勢が崩れていたペルカードは避けきれず、まともに食らうこととなった。
「ぐあっ!?」
思わぬ一撃に苦悶の声を上げる彼だが、そんなことはお構いなしにリディア王は追撃を仕掛ける。
彼は右手に持った剣を振るいながらも、同時に左手に新たな黄金の剣を生み出しそれを投げつけてくる。
迫り来る二刀の刃に対し、ペルカードはとっさに両腕で防御の体制を取った。
しかしその程度のことで防げるような生易しい攻撃ではない。
「ぬあああ!!」
彼は全身に力を込め、踏ん張ることでなんとか攻撃を耐えきった。一方の攻撃を防いだところで、今度はもう片割れの刃が迫っている。
ペルカードは再び腕を交差させて受け止めようとするが、そこに容赦のない連続攻撃が叩き込まれる。
「ぐうぅ……!」
衝撃に耐えかねて思わず膝をつく。
一方でリディア王の方は全くと言っていいほどダメージを受けていないようだ。
先ほどのコインの一斉射撃といい、今の連続攻撃といい、明らかにこちらの方が分が悪い。
この勝負、このままでは負けてしまうだろう。その時、会場の隅で観戦している一人の男が立ち上がった。
「……これは、いけませんね。あの二人、本気で殺し合いを始めていますよ」
そう言って眼鏡の位置を直しながら呟いたのは、審判役のサーヴァントだった。
その言葉に周りの者達はどよめく。
「なんですと?まさか、そのようなことが……」
「本当ですとも。私の目は誤魔化せません。あれは間違いなく、相手を殺めるつもりで戦っている。それもどちらかが死ぬまで終わらないでしょう。私にはわかります。あの戦いは、そういう類のものだ。
まあもっとも、それを止められるのは同じ"主催者側"であるマスターだけなのですが……。……おっと失礼。どうやら向こうも決着がついたようですね。勝者は……クロイソス殿だ」
サーヴァントの言葉通り、いつの間にかクロイソスが地面に倒れ伏すペルカードを上から見下ろしていた。
そして倒れた彼に歩み寄りながら声をかける。「降参するなら、命までは取らないが?」
ペルカードはその言葉を鼻で笑い飛ばした。
「フッ、ハハハハハハハ!バカを言うな!ここまで来て引き下がれるものか!たとえここで朽ち果てようと、俺は最後まで戦い抜くぞ!それが騎士というものよ! さぁこいクロイソス!俺はまだ戦えるぞ!」
彼は立ち上がり、再び構えを取る。
その姿からは、もはや敗北の恐怖など微塵も感じられない。
「ふむ、ならば仕方がない。お前に敬意を表して、我が全力を持って相手しよう!」
対するリディア王もまた、自らの最強の技をもって応戦せんとする。
二人の視線がぶつかり合った次の瞬間、両者は同時に動いた。
「行くぞ、『金の魔貨・銀の聖貨(コイン・コイーン)』!!」クロイソスの手から大量の金貨と銀貨が発射される。
だがそれはただの貨幣ではなく、魔力によって生み出されたものである。クロイソスはそれを空中に投げ上げ、そして指を鳴らした。
するとコインは重力に従って落下することなく、その場で静止した。
まるで、一枚ずつが意志を持っているかのように、自ら宙に浮かび続けているのだ。
やがて全てのコインは、一斉にクロイソスに向かって飛来し始めた。
それに対してクロイソスは黄金の鎧を身に纏い、さらに手に持っていた短剣を頭上に掲げる。
「うおおおおおお!!!」
雄叫びと共に、クロイソスは短剣を振り下ろす。
その動作に連動するように、空中に浮いていたコイン達が一斉に動き出した。
そしてクロイソスの周りをぐるりと一周してから、彼の手元へと戻っていく。
最後に彼がもう一度短剣を振ると、先程までコインだったものは一瞬で金塊に変わっていた。
「『金の魔貨・銀の聖貨(コイン・コイーン)』はその名の通り、金と銀を生み出す宝具。
つまりクロイソスは、自分の望むものを自由に作り出すことができるのです。」
「何という宝具だ……」
サーヴァントの解説を聞いている間にも、試合は続いていた。
クロイソスは今度は両手を掲げ、そこにそれぞれ一本ずつの金の槍を作り出すと、一気に投擲してきた。
二本の槍は回転しながら飛び、ペルカードの身体を貫かんとする。しかしそれを、ペルカードは難なく避けて見せた。
「ふんっ、狙いが見え見えなんだよバーカ!」
そのままクロイソスに接近し、一撃を入れようとする。
だがクロイソスは余裕そうに笑うと、右手で拳を作り、振りかぶった。
次の瞬間、ペルカードに強烈な衝撃が走る。
なんと、クロイソスは右ストレートを繰り出してきたのである。
まともに食らってしまったペルカードはよろめきながらも、なんとか体勢を立て直す。
「なんだと!?︎くそ、小賢しい真似を……!」
「どうだ?これが俺の実力だ!さぁ、次は何を出す?」
クロイソスの言葉を聞きながら、ペルカードは相手の隙を探る。
あの宝具は、一度使うたびに莫大な魔力を消費するようだ。
それ故に、連発はできないはず。ならば、そこを狙うしかない。
(ならばまず、手数を減らす!)「喰らえ!」
再び距離を詰めて肉薄する。そして、渾身の力を込めて蹴りを放った。
しかしその攻撃も、クロイソスは腕をクロスさせて防御する。
ペルカードはそのまま回し蹴りの要領で足を横に振る。
「甘いわっ!」
だがそれも、クロイソスには簡単に避けられてしまった。
逆に彼はペルカードの背後に回り込み、槍を突き刺そうとする。
「……ッ!」とっさに体を捻って避けるが、肩口を少し掠めてしまう。
血が滲み出るが、気にしている暇はない。
すぐに振り返り、追撃をかける。
クロイソスは今度は左手からコインを生み出し、投げつけてくる。
ペルカードは身を低くして走り抜け、クロイソスの懐に飛び込んだ。
そのまま腹部に向けて、掌底を放つ。
「ぬぐぅ!!」
流石のクロイソスもこれを防ぎきれず、後ろに仰け反ってしまう。
その隙を逃さず、ペルカードは足払いを仕掛けた。
だがクロイソスはすぐに立ち上がると、大きく跳び退いて回避した。
そして空中に浮かんだまま、また新たな宝具を作り出し始める。
「まだまだ行くぞ!」
「させるか!」
再び接近しようとするペルカードを牽制するように、クロイソスは次々とコインを投げていく。
ペルカードはそれらを全て弾き飛ばし、一気に距離を詰めた。「無駄ァ!!」
勢いのままに拳を振り下ろす。
クロイソスはそれを槍の柄で受け止めると、そのまま押し返そうと力を込める。
しかし、そこで異変が起きた。
突然ペルカードの足元が光を放ち始めたのだ。
「なにっ!?︎」
「おぉっ!?︎なんだこりゃあ!?︎」
同時にクロイソスが動揺の声を上げる。
二人は驚きつつも離れようとしたが、遅かった。
次の瞬間、二人の身体は眩い光の渦の中に飲み込まれていた。
二人が立っていた場所を中心に、まるで竜巻のような風が吹き荒れる。
それは周りの木々をなぎ倒し、地面の土を巻き上げていった。
やがて光が収まり、視界が戻る。
そこには、先ほどまでの光景は無くなっていた。
あるのは、クレーターのようにえぐれた大地のみ。
周りにあった木や草は全て消え失せており、代わりに黒焦げになった岩や砂が広がっている。
その中心で、二人の戦いはまだ続いていた。
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
「うおらああああああ!!!」
「おおおおおおっっっっっっ!!!!!!!!」
ペルカードは全力の一撃を繰り出す。
対するクロイソスもまた、全身全霊の力を込めた突きを繰り出してきた。
互いの力が拮抗し、一瞬だけ動きが止まる。そして、爆発が起こったように弾けた。
二人の鎧が砕け散り、辺りに散らばる。クロイソスの鎧は、彼の頭部と左腕の籠手、そして腰の部分しか残っていなかった。
一方のペルカードも鎧の大半を失っており、残った部分もボロ布と化している。
両者ともに満身創痍であり、立っているだけでもやっとの状態だ。
だが、それでも戦いは終わらない。
「まだだ……まだ……!」
「………………」
「負けられないんだよ……俺は……!」
「………………」
「だから………………死ね。」
クロイソスは右手に持っていた槍を放り捨て、空いた手でコインを生成し始める。
そしてそれを、渾身の力を込めて投擲してきた。
「ッ!くっ……!」
「ぬおっ……!」
ペルカードは避けようとするが、間に合わない。
彼は咄嵯に右腕を前に出し、防御の姿勢を取った。
しかし、衝撃は来なかった。
ペルカードが顔を上げて見ると、クロイソスの姿が無い。
慌てて周囲を見回すと、上空高くからこちらを見下ろすクロイソスを発見した。
どうやら、ペルカードの頭上を飛び越え、背後を取っていたようだ。
「終わりだ!!」
クロイソスは左手に持った剣を突き出す。「……!」
ペルカードは振り向きざまに槍を振るおうとする。しかしその前に、クロイソスの放った刃先がペルカードの心臓を貫いた。
「……!」
ペルカードは目を大きく見開く。
それと同時に、胸元に強烈な痛みを感じた。
しかし、それも束の間。
意識が薄れていき、何も考えられなくなる。
目の前が暗くなっていき、全てが闇に包まれていく。
最後に聞こえたのは、クロイソスの呟きだった。
「さようなら、我が宿敵よ……」
(………………そうか……そういう事だったのか……)
その言葉を最後に、ペルカードの思考は途絶えた。
————
「……」
「……」
静寂がその場を支配する。
ペルカードの身体は崩れ落ち、地面に倒れ伏した。
クロイソスはその様子を、じっと見つめている。
やがて、彼が口を開いた。
「勝ったぞ、イアソン。お前との約束通り、仇は取ったぞ。」
クロイソスは空に向かって語りかける。