上根の菩薩衆に対して説かれたこの「法説周」ですが、上記のように三つの内容からなります。これは次に続く譬説周、因縁説周にも共通する内容ですが各々の説周が三つの内容で構成されております。要はこの 「三周の説法」で三種・三観が説かれている訳です。三種・三観は天台智顗が一念三千の基本形として示した天台教学において最も重要とされる法理です。
三種・三観と言えば、この前お話しました『般若心経』が実はこの「三種・三観」が示されているとお話しましたが、この法華経においても「三種・三観」が示されております。実は初期仏典の三蔵教の中でも「三種・三観」は別の形で説かれております。
「九次第定」がそれにあたります。
色界禅定の初禅で客観を空じて析空を感じ、二禅で主観を空じて体空を感じ、三禅で五蘊全てを空じる事で法空を感じて四禅で空観に入ります。色界禅定はこの空観(色界)に入る為の禅定で空観に入りますと空無辺で欲界・色界・無色界の三界の空間を空じ、識無辺で末那識の自我を完全に退治することで八識の識層を空じます。これによって仏の空観が空じられ(非空)て、無所有処の無色界へ入ります。無所有処では生と死の生死の二法が不二となって同時に顕れます。更に非想非非想処から滅尽定へ入って涅槃となります。
実は『観無量寿経』にも「三種・三観」は説かれております。
14,観無量寿経(その⑤)
https://butudou.livedoor.blog/archives/17944347.html
四教の各々でこの三種・三観が説かれております。
蔵教=『九次第定』
通教=『般若心経』
別教=『観無量寿経』
円教=『法華経』
天台智顗の『魔訶止観』の中の「四門の料簡」は、それをひも解いた内容です。
<蔵教の四門>『阿含経典』
蔵教の声聞
通教の縁覚
別教の菩薩
(蔵教を説く応身の釈迦)
<通教の四門>『般若経典』
通教の声聞
通教の縁覚
通教の菩薩
(通教を説く報身の釈迦=観音菩薩)
<別教の四門>『華厳経典』
別教の声聞
別教の縁覚
別教の菩薩
(別教を説く法身の釈迦=大日法身)
<円教の四門>『法華経』
蔵教を説く応身の釈迦
通教を説く報身の釈迦
別教を説く法身の釈迦
法華経を説く円経の釈迦
ちなみにですが、初期仏典で説かれている「戒・定・慧」、「欲界・色界・無色界」、「仏・法・僧」もよくよく考えてみますと次にような事になるかと思われます。
「戒・定・慧」 --- 実在の世界での「凡夫の空・仮・中」
「欲界・色界・無色界」--- 空間における「仏の空・仮・中」
「仏・法・僧」 --- 覚りの世界観における「真如の空・仮・中」