難病キャラバン

亜空間花 / 67

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土岐川祐 2019/01/04 (金) 22:35:46 修正

八年くらい前でしょうか、ASなのか線維筋痛症なのか、併発なのかわからず、どっちにしろ、動けないし、全身過敏で日常生活は難しいなと思ったとき、ただ寝ていても回復しないと思いました。私の場合、病名がわかる前から、自分の体はどこかおかしい、尋常で無いという自覚はあったので、県内で探す限りは頼れる医師がないと知ると、もう何にも頑張らないで、好きなことをするのも難しそうだけど・・・好きなだけテレビが見られるなあ、と思いました。ちょうど良いことに?耳鳴りを忘れることも出来る。

暇だけはあるので、好きな漫画を読んだら、ページは捲れない、手首は痛い、感動すると具合が悪くなる・・・だめだーーー ちょうど引っ越したばかりで、山奥過ぎてアナログは入らない・・・アナログから地デジに切り替わるころだから、もう少しさかのぼるかも。夫がここぞとばかりに大きなテレビを買いました。電化製品がなるべく少ない家にしたかった私の夢はそこで潰えました・・・そこら中あっというまにコンセントとつなぎだらけ。

単身赴任の筈だったのに、病気になったら同居する、夫も子供も、ただ散らかして私の神経を逆なでしたのでした。痙攣したり倒れたりしても、気がつかないくらいだから、そりゃもう気もあわないし、でもひたすら婚家のやり方にあわせていて、やっと一人になれたと歓喜していました。

今では夫が買い物して買い食い、夫が洗濯も掃除もしている、私が手伝おうとすると「(後で必ず寝込むから)やめて」と言いますw がその頃はすっきり綺麗にしていた家の中があっという間にものに溢れるのはつらかった。わがままだと自覚はありますが、ン十年、好きなテレビも見なかったし、好きな食べ物も食べない、でも好き嫌いの多い家で手作りし、ちょっと聞いていたニュースをリモコンでぱちぱち替える、婚家も里もしょっちゅう呼び出すけれど、後から言われるのは文句ばかりで、解放されたいと思い詰めていました。

そうよ。今私は寝たきりよ。こういうときにテレビを見るのだ、と思い、一日中つけていました。一度夫が大きなスピーカーをつけましたが、その音に耳をふさいで、「痛い、痛いぃぃぃ、ステレオスピーカー取り外して」と泣きました。それで、夫の部屋にスピーカーつきテレビ、今には大きなテレビ、後には娘の部屋にもテレビ・・・エアコンもしかり。ものすごい電気代だし、その頃東北で震災がありました。岐阜の東であるうちも結構揺れました。

次々流れるむごい光景に目を疑うほどなのに、隣県の偉いセンセに言われた「脊椎関節炎はなぁ、東北じゃ知られていないんだ、わざわざこっちへ来たのにものすごく痛そうなのだ。それなのに家も流されて、な、かわいそうやろ」という言葉を思い出す・・・本当に心からの同情を抱きました。・・・がそれはそれ、私もすごく苦しいので、私にそれを言われても。私ももっと同情して心を痛めるべきだと言いたかったのでしょうか・・・自分がつらいとき人は他人に同情できないと知りました。応援メッセージやワンクリックで店のサービスをして収益を被災地に送る・・・いまこれを書いたら、きっと誰かが傷つく。書くこととは他人を傷つけることとよく聴きますが、私は書きまくって、無意識に他人を批判しているのでしょう。

暇だし、ベッドふわふわ、着る物は縫い目が痛いので裏返し。毎日CSで海外ドラマを見ました。「メンタリスト」「クリミナルマインド」「NCIS」「ハンニバル」「オールモストヒューマン」「リミットレス」「エレメンタリー」etc。

ああ、その頃はまだ目が見えていて、寝転んでテレビの見放題。苦しくて泣きたいけれど、なんだか幸せも感じる、私の好きな番組は家族が嫌いなものばかり。誰も見ないので、マイルームにマイベッド、マイテレビ、部屋の横にはトイレがあって、部屋の中は水道も来ていて、ポットで暖かいものを飲み放題。こんなに贅沢したのは生まれて初めてでした。そして今までよくもあんなに働いたなあ、と遠くになった「働く嫁」世界をぼんやりと思い出す。

自分の部屋を持って、誰にも文句を言われず、足音に気を遣うことも無い、一人きりが楽しくて楽しくて。チャンネル勝手に変えられないし。私が見ていたドラマは、大抵悲惨なものばかり。「ハンニバル」は映画「羊たちの沈黙」のドラマ版オリジナル、サイコサスペンスです。「クリミナルマインド」も目を背けるような悲惨さでした。「ブラックリスト」はアクションもので、はらはらドキドキ、見終わった後神経が高ぶって眠れませんでした。それでも楽しかった。続きが見たかった。「ゴッサム」はバットマン」の主人公の少年時代で、これまた悲惨なのw こんなに交感神経を高ぶられているのに、アドレナリン分泌最高潮なのに、楽しい。

これは一体どうしてでしょうか。そのうち、苦しい自分になれてきたか、何らかの薬の効果でか、ほぼ薬だと思うんですけど、飲んでいる間は少し楽な時間が出来ました。その大切な時間を私はテレビを見ることに使いました。子供の頃からほとんどテレビを見ていないので、お笑い番組はわからないし、芸能ニュースもわからない。

おもしろくない。でも海外ドラマはストーリーがある。サイコな精神を探り合い殺し合う。何故それが私にとっての癒やしになったのか、未だに謎です。

それと、八年間の多くが、食事はカロリーブロックと牛乳とビタミン剤と食物繊維の元でした。私は食べるのが嫌いでした。拒食症とかでは無くて、和洋中何でも作ったし、ケーキもクッキーも飽きるほど作ったの。でも自分は食べない。食べたくないの。一番嫌いなのは和食です。カロリーブロックか菓子パンしか食べなくて良いのです。楽しいんです。おかげで高脂血症になりました。薬を飲んだらあっという間に治りました。

他人の心ない言葉はいつまでもいつまでも残るけど、ドラマの拷問や裏切りは楽しい。私はそれを「自分とは世界の違うバイオレンス」だから、と定義づけました。日本の番組、旅やコンサート、聞き慣れない歌も、そこにあるのに縁遠く・・・全部受け付けないけれど、多くの人が手に入る。寝たきりの私にはつまらない話ばかり。けれど海外のドラマの中に自分を置いて、世界観に浸るのは「特別」な気がした・・・自分と全く関わりの無い世界であり、私が身を置いてみたい世界。自分がもうフツウには生きていけなくなって、思いっきり日常をサボって浸れる、「特別な時間」です。

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