きくくち

《遺志》

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左手を不意に握るあなたの右手
少し前に同じことをされたときと
同じ感触がこの手の中心にある
先輩と私にだけ話したと
編集長は仰っていました
開いた左手の掌に
変哲もない輪ゴム
これは妻なんだよ
半年前 カウンターの一つ奥の席で
しらふと変わらない顔の編集長
輪ゴムが私の手の中で突然跳ね
やつれた彼の口元が綻ぶ
心配事を抱えているね
事実、彼に相談するか迷っていた
その件で解決策を授かるタイミングは
あの日しか無かった
妻は良くない事が迫るとこうして
手の中で跳ねて教えてくれるんだ
半年前に急逝されたご夫人
会議でも営業でも片手を握っていることに
あの夜までは気付いてなかった
翌朝、事務作業をする編集長の
左手の薬指に輪ゴム
変哲の無い規格品の、薄茶色い
これは奥様なの?
質問にあなたは目を伏せながら
事故現場ではなく
デスクの引き出しに仕舞われていました
つい先刻対面した編集長のお体の
左手薬指には結婚指輪だけ
明日、出棺の前にみんなからの思い出の品を
お供えさせてもらうことになってるんです
縋りたい色が滲んだ瞳から目を逸らす
びくん、と輪ゴムが手の中で跳ねる

川原寝太郎
作成: 2020/02/19 (水) 20:23:39
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投稿ありがとう。
 
ショートストーリー的な構成なので、
オチがわからないとちょっと厳しいかもしれない。
という前提があり。
そこは読者を選んでもいいとはおもうけど。
 
気になった点がふたつ。
 
ひとつは、改行は最大の武器だとぼくはおもっているので、
この詩の内容でチェンジ・オブ・ペースを
ただ字句にゆだねるのはもったいない気が。
 
ひとつは、「その件で解決策を授かるタイミング」
「縋りたい色が~」など、ちょっと表現が堅苦しさに寄っている(個人的意見)部分。
 
なんとなく「3分以内に詠める」ってかんじもおぼえたし、
もうすこし伸ばしてしまうのもありじゃないかしら?