「…中央集権運営とかどうだろう」
黒谷は「なにいってんだこいつ」の顔で俺を見た。
「何を言ってるんだ…?」
「あー…っと黒谷。簡単に説明すると…
江戸幕府みたいなもんだ。頂点に将軍がいて、その下に老中とか大名とかいただろ?」
「うんうん」
「それと同じように、頂点に「総合管理人」を建てる」
「うんうん…うん?」
「その下に曜日ごとの管理者がいて…ユーザーがいる訳だ」
「………あー!なるほど!つまり権力を総合管理人?とやらに集中させると」
「そーだ。総合管理人は2人建てる。片方が暴れるのを防ぐためだ」
「ぬぁーるほど…中央集権運営、確かに良いかもしれん」
俺は、手応えを感じた。
通報 ...
凍結されています。
…サイトをどんな感じにしたいかの大体の構想は固まった。あとはサイトを作るだけ。…なのだが…
…残念な事に、俺にはサイトを作れる技術がない。
それは黒谷も同じことだ。第一、俺はどういうソフトで作れば良いのかさえも分からないのだ。
「…明日、誰か作ってくれる人いないか学校中探してみよーぜ、小室」
「…居るかなぁ…」
こうして、俺たちのサイト製作者探しが始まった。
…翌日、俺と黒谷で学校中の友人に尋ねてみたが、誰一人として「俺できるよ」と言ってくれた人は居なかった。
「はぁ…やっぱ居ないのかな…」
「まあまあ、そんなこと言うなよ黒谷。もっと探してみようぜ」
「…俺らがサイト作ればよくね?そしたら自分でデザインできるし、手間もかからないしよ」
黒谷が、ポツリ、と言った。
「…しかしなぁ…俺らはサイト作れないぞ…?」
「なら勉強すればいいだろ、今の世の中ネットで調べられるんだからよ」
「…」
黒谷の正論に、俺は何も言い返せなかった。
「ええと……と。これで良いのかな?」
「ちげーよ、だ」
俺たちは、初めて見た暗号のような文字列に戸惑いを見せながらも、
インターネットサイトの力を借りて勉強に励んでいった。
やがて1年が経ち、なんとかサイト製作を始めた俺たちだったが…俺たちに新たな脅威が押し寄せる。
「受験勉強」だ。
もちろん最初は両立させていた。
しかし…段々と受験勉強が忙しくなり、いつの間にかサイト製作はやらなくなっていた。
そして…黒谷とも離れ離れになってしまった。
時は流れ、俺は大学生になった。
学校での成績は優秀。おまけに彼女も出来て、俺は順風満帆のキャンバスライフを送っていた。
そんなある日のことである。
「ピロロン!」
1件のメールが俺の所に来た。…黒谷からだった。
「なんだ?…
『よう小室、元気か?俺は今、とある会社に務めている--とは言っても、三流企業だけどな。
数年前に、新しい掲示板を創るとか言ってただろ?それについての話がある。今度の日曜会えるか?』
…新しい掲示板…懐かしい響きだな」
俺は数年ぶりに、近くの喫茶店で黒谷と待ち合わせする事にした。
「遅いなぁ…早く来ないかな」
テーブル席で待っている俺を裏目に、時間はどんどん過ぎていく。すると…
「やーすまんすまん、小室。うっかり寝過ごしてなあ」
ガラッ、という音とともに黒谷が現れた。
「…ったく、話があるとか言って呼び出した人は誰ですかねぇ…?」
そういうと黒谷は、ごめんごめんと言い向かいの席に座った。
「んで、新掲示板の話って何よ」
「あー、…オホン!…本題に移ろう。
新掲示板だが…俺たちで会社を立ち上げて、そこで運営する--とかどうだ?」
…え?
……え?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁああああ??!!」
「話飛びすぎだろ!なんだよ会社作るって!!お前頭どうかしたのか?!」
思わず叫んでしまった俺のことを、マスターと客がじろじろ見ていた。
「おい、小室…すこし黙れ」
「…あ。スマンな」
「ンモー…んでだ。俺は何も、無計画に会社を作ろうと考えてるわけじゃないんだわ。
個人で運営すると、どうしてもサーバー維持費がかかってしまう。ドメインを取得して運営するなら尚更だ」
「あー…確かに」
「それに、2人だけじゃろくに管理もできないだろ?『複数管理人制度』が成立しない。
会社を立ち上げてメンバーを募集すれば、管理も行き届くと思うな」
「うん…黒谷の言う通りだが、一つ気になることがある。聞いていいか?」
「あ…ああ」
「会社作るときは、20万円近くかかると聞いたんだが...そんな大金何処にある?」
「あー...その辺は安心しろ。なんとかして見せるさ」
「(...大丈夫かな)」
とりあえず、続きの話はメールですることにしてその場を後にした。