仏による衆生教化の始終を作物の種が育っていく過程になぞって「下種益・熟益・脱益」の三益に振り分けた「種熟脱の三益」という仏教用語があります。
これは法華経『化城喩品第七』の因縁説周で出てきます大通智勝仏と深く関わってきます。
まず下種益とは、仏が衆生の心田に成仏の種を下すことです。次に熟益とは、下された種を成熟するために衆生を教化して機根を調えること、そして脱益とは、熟した果実を収穫するように衆生を成仏・得脱させることをいいます。この種熟脱の三益は、法華経で初めて説き明かされる法門で、三益が説かれなければ、衆生の成仏の因縁関係が明らかになりません。
因縁説周では過去三千塵点劫という大昔に大通智勝仏という仏がいて、その大通智勝仏が王であった時にもうけた十六人の王子がおりました。大通智勝仏は王子の求めに応じて法華経を説き、それを聞いた十六人の王子は父に代わり、それぞれの因縁に従って父の法華経を重ねて説きます。これを十六王子の法華覆講と言います。「法華覆講」とは、何度も繰り返して法華経の説法をすることを言います。
第十六番目の王子は、娑婆世界において法華経を説きましたが、その王子は釈尊の前世の姿で、その時に教化された衆生は、釈尊の法華経の会座に居合わせた衆生であると釈尊と声聞の弟子達との過去世からの因縁が明かされます。
この大通智勝仏の時代に仏と結縁した事を「大通結縁」と言いまして、因縁説周の大通結縁の話は「迹門の三益」と言われます。
天台智顗がこの「大通結縁の三益」をどのように捉えていたか、こちらの研究論文から伺えます。
大通結縁の第三類について 最上泰滉
https://rissho.repo.nii.ac.jp/record/4471/files/KJ00004400361.pdf
それを受けて、日蓮大聖人が種熟脱の三益をどう論じたかはこちらの「庵谷論文」で詳しく知ることが出来ます。
日蓮聖人の三益論 庵谷行亨
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/28/1/28_1_252/_pdf/-char/ja
庵谷 行亨教授は、立正大学仏教学部元教授、身延山大学仏教学部特任教授の仏教学者であると同時に日蓮宗の僧侶でもあります。