霧雨
窓際族 niarytsim
2020/03/16 (月) 02:00:50
気が付くと俺ももう27歳、嫁と結婚して1年になる。
幾重にも繰り広げられた夜の営みの甲斐あって、嫁は無事に妊娠したらしい。念願の我が子に出会えるまで、あと少しだった。
嫁は「女の子がいいわねえ」なんて言っていた。しかし私は、本音を言うと男の子が欲しかった。女の子の思春期というものは、まさに地獄そのものらしい。
上司によると、家庭に居場所がなくなってもおかしくないというのである。
それは困る。女の子が産まれるということは、それだけ育てるのに神経を使うということなのだ。俺のように、両親に反抗するようなこともなく、穏やかな青春時代を過ごした人間であれば、なんの問題もないのだが…。そんな確率はないに等しい。
━━━そして、出産当日。産まれたのは女の子だった。無事に産まれてくれて何よりだ。性別なんて関係ない。嫁が産んでくれた以上、俺の大切な子に等しいのだ…。
娘は、O型だった。
━━━それから15年後。俺は仕事帰りに深夜までパチンコをうつことが日課になっていた。
1枚の紙を手に、俺は呟いた。
「最初から、分かってたことじゃないか。何を今更…」
お金が無くなった。俺はパチンコ台の前で、ハサミを手に取った。この長い髪を切るために。
ばっさ、ばっさと髪を切る俺。そんな異様な光景に気付いた店員に声をかけられる。
「お客様、何を…えっ!?」
ギョッとした店員に、俺は自分の切った髪を突きつけてこう言った。
「これが欲しいんだろ!ええ!?」
考えてることなんて、お見通しだ。俺に分からないとでも?
いたたまれなくなった俺は、その場で髪を投げ捨て、そのままトイレへ駆け込んだ。
ふと、鏡を覗き込む。
「…行き着く先はいつもこれだ」
個室だらけのトイレ。映り込む怪物。
俺は、枯れ果てるまで涙を流し続けた。
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