>> 147
……正直に言ってしまえば。理解不能、というのが、感想だった。
彼女は魔術世界について詳しい訳ではない。高慢ちきで、冷酷で、わけのわからない存在。魔術師などそういうものであろう、というのが彼女の認識である。
従って、相手がその魔術師であった事実、そしてその命題について言えば、厭悪すら抱いた。
死に際を集めるなど、何たる悪趣味か。それが故に妙な犯罪者が生まれ、剰え徒党を組んで地元にいるかもしれないとは。何たる大迷惑な女であろう――――。
しかし、その後に続けた言葉で、その印象は砕かれた。己の魔術師としての活動によって生じた「かもしれない」問題を、わざわざ解決に来る。彼女の知る魔術師とは、あまりにもかけ離れた価値観。
その言葉に嘘がない、と判断できる程度には、彼女の眼差しは真剣であり、それは自身の認識と著しい齟齬を起こしており、
「……そんな傍迷惑なんが近くにおるとか、怖ぁて寝られんやないか」
……だから、彼女は理解を放棄した。
その代わり、本当にそうなのだろう、と、信じてみることにした。
「……取り敢えず、人の集まるところに案内だけしたる。その後は……どうなるかわからんけど」
「聞いてしもたしな。まあ、手伝うたるわ」
わざわざ面倒を背負い込んだ。きっと、自分のサーヴァントは笑うだろう。組の大工達には迷惑をかけることになるかもしれない。
ただ、見過ごすという選択肢を取るくらいなら、そちらの方がよい。目に見えたバカデカいリスクの回避は、組織の長として当然だ。何より、彼女が追跡に費やしてきた年月と決意には、敬意を払うべきだ。
己が宮大工としての技術的血脈を継ぐ以上、それに対する敬意だけは覆してはならない。
歴史、そして想い。それだけは。
>> 148
だからこそ、尾名の言葉には、何となく得心がいった。
「……朽ち果てて、何ものうなっても、本来の形がのうなっても。覚えられとる限り、それは在る」
例えば、最早掻き消えてしまった、嘗ての梅田の姿。年柄年中工事が繰り返され、生きているように蠢いていた、建造物と人の群れ。
それは、現実からは失われた景色だ。だが、それはまだ自分の中にある。
懐古し、共感する者は次第に少なくなる。されど、それが続く限り、「梅田」ならざる梅田は消え去ることはない。
「ややこい話は得意やないけど、アンタの言うこと、中々おもろいな。行き道で、ゆっくり聞かしてもろても構わへんか?」
歩き始めながら、刀根は少し笑った。自分らしくはないかもしれないが、たまにはそういうことがあってもいいだろう。