少し書いたので建てます 名前が違うとかがあったら、言ってください
第一話 旅立ちの二人
(この世界に、問題という問題は山ほどあるけど) マリンは、言い訳、あるいは現実逃避のように、そんなことをふと、思うのだった。 (問題に対する回答が、必ずしも存在するってわけじゃあ、ないのかもねーー例えば、今とか) ポケモン勝負において、巻く舌もないほどに、圧倒的な力の差というものがあるのなら、果たしてマリンは簡単にその勝負を放棄できたであろう。 しかし、今彼女がおかれている状況は、そうではなくーー絶妙に、あるいはゆっくりと気圧されるように、詰めを狙われているような。 とにかく、なんとか打破できそうなところはあるのだ。ただ、『どのようにして打破するのか』という問いに対し、マリンは答えを出すことができないのである。 (無いもんかしらね、答えって) 全ての問題に対し適切な回答を求めるのは、傲慢なのかもしれない、と彼女は思う。 (むしろ、怠慢、かなあ) そこまで考えが流れたところで、マリンはいけない、と首を回す。 (まあーー適切じゃあないかもしれないけどさ、一応の答は出てるんだよねえ) ふう、と息をついてから、彼女は自分の左胸に付いている、モンスターボールの形をしたバッジを握り締めた。 (やれるだけやろうーー足掻けるだけ足掻こう。なにより、負けるのは嫌だし) とある日の昼、ビアンカタウンでのことだった。
001
僕を呼び起こす声がしたので、飛び起きてみると、それは目覚まし時計の機械音だった。 どうして、普段使っていない目覚ましが、今日に限って? 目覚ましのアラームを止めるのと同時に、その疑問は解決した。 「ああ……そっか」 今日は、旅立ちの日なのだ。 ベッドから降り、カーテンを右にずらすしてみれば、予想通りか、強い日差しが部屋に入る。 旅をする間、いつもこんな日のもとに晒されることになると考えると、少し嫌気もさすが、そのうち慣れるだろうと、僕はカーテンを締めた。 着替えるのだ。今日のために準備した服がある。
服を着替え、部屋を出、一階に降りると、母とマリンがそこにはいた。 「あら、ラグナ。おはよう」 「おはよう、母さん」 続けて、双子の(多分)妹のマリンが挨拶をしようとするが、彼女は朝食のパンを口に突っ込んだままいったので、 「んあ、あうあおあおう」 ちょっと意味が分からなかった。 「うん、おあおう」 そういって、僕はマリンの隣に座る。机上には僕の分の朝食が用意されていた。 これがしばらく食べられなくなるのかと思ってみると、なるほど少し感慨深いものが、そこからは感じられた。 「ついに出発だね」 牛乳で口の中を空にしたらしいマリンが、そう呟いた。 「そうねえ。そういえば、お母さんも、あなたたちと同じくらいの頃、旅に出たのよ」 その話が母の口から出るのは、果たして何回目だろうか。ただ、断る理由もないので、僕は聞き流すように聞くーーマリンも同様の考えのようだ。 「ホームシックってやつかしらね。半年もしないうちに、家に帰っちゃったけど」 あなたたちはちゃんとしなさいよね、と笑いながら言う。 「だってほら、博士から貰うんでしょ?ポケモン図鑑」 「そうだよー」マリナが、(学習したのか)ちょっとだけパンを口に放り込んでから、そう言った。 「ちょっとだけ、面倒だけどね」僕が言った。 「ふふ……目的があるって、いいことじゃない」 目的、かあ……。僕は息を吐くようにそう呟いた。 僕には夢があるのだ。
『ポケモンリーグのチャンピオンを倒し、サザン地方の頂点に立つ』
朝食を食べ終え、玄関でマリンと並んで靴紐を結ぶ。 「なんか、本当に旅に出るんだな」 「当たり前でしょ。……いや、気持ちは分かるけどさ」 母さんは、朝食を食べ終えたあと、「じゃ、頑張ってね。応援してるわよ」と一言だけ言って、二階へと上がって行った。 あっけらかんとしているというかーーまあ、そのほうが気楽でいいが。 旅立ちに悲しみの別れはいらない。 僕は外に出るーーマリンがそれに続いた。 「あっつ……本当に朝なの?」 マリンが顔を歪めて言った。 「おひさまからお祝いの日差しだよ」 「これ以上無く暑苦しいね」 僕の適当な受け答えに、マリンも適当な答え方をする。 家からおよそ三分ほど歩き、着いたそこは、研究所だ。 「おはようございまーす」 鍵がかかっている様子はなく、僕はドアを手前に引き、中に入る。マリンがそれに続く。 「え?ん、ああ……君たちか。おはよう。ひょっとして、いい朝だったりするのかな」 ジャスミン博士は、本当に『おはよう』みたいな感じだったーーきっと仮眠か何かをとっていたのだろう。 『博士』という肩書きを持っている割には、白衣の一つも着ているところを見せないジャスミン博士だがーーしかし実のところ彼女はすごく研究熱心で、多忙なのだ。 「さて、それじゃあ早速ポケモンを渡そうかな」 欠伸をしながらそういって、ジャスミン博士は机の引き出しからモンスターボールを三つつかんだ。……研究職の人って、もっと大事にものをあつかうものだと思ってた。 それから、 「ほれ、二人。キャッチ!」 こちらに向けて、ディスクシューターのように水平になにかを投げてきたーーアルティメットよろしくつかんでみると、果たしてそれはポケモン図鑑であった。 「っちょ、精密機械なんだから、大事に扱わないとなんじゃ……」 僕が多少の怒りを混ぜてそういうと、 「まあまあ。ポケモンの自動認識機能以外は、ただの記録装置だよ。HDDとなんら変わりはないさ」 悪びれる素振りも見せず、そういうのだったーーいや、だからそういう問題ではない。 「さあ、出てこい、新たなる旅立ちのパートナーたち!」 博士は、モンスターボールの中から、ポケモンを出した。 「んじゃ、二人共、図鑑のレンズ部分をポケモンに向けてみて」 言われたとおりにしてみると、図鑑が自動で起動したーーどうやら、ポケモンを認識した時点で、図鑑機能が起動するらしい。 「おお……」 マリンが感慨の声をもらす。 左端の緑色のポケモンにレンズを向ける。図鑑に、そのポケモンの説明が表示されるーーどうやらこのポケモンは、キキウィという名前で、草タイプのポケモンであるらしい。 その隣にいるポケモンは、ヒガルーという炎タイプのポケモンで、もっとも右にいるのがアオクマという水タイプのポケモンだった。 「草、炎、水……綺麗な三竦みですね」 マリンがそういった。 「だろう?ただ、その中から二人で、一匹ずつ選ぶんだーーこれが、つまりどういうことか、分かるかい?」 にやりとして、博士は言った。だから、彼女が言いたいのはこういうことなのだろうーー三竦みであるこの三匹の中から、二匹だけ選ぶと、どちらかが有利に、そしてどちらかが不利になってしまうのだった。
「ええと、博士の性格の悪さがよく分かりますよ」 割と冗談ぬきにそう言ったのだが、当人は気にすることもないようで、あはは、と愉快そうに(あるいは無邪気に)笑った。 「ただ、実際のところ、この三匹のポケモンは君たち初心者トレーナーには、おあつらえのポケモンたちなのだよ」 しゃがみこんでアオクマの頭を撫でながら、博士は言う。 「と、言うと?」 「私はポケモン研究の分野についてはーー有名どころではジョウト地方のウツギ博士なんかはポケモンの繁殖について専門的に研究していたりするのだがーーオールマイティなところがある」 「はあ。それで?」マリンが答えた。 「中でも、私が好んでいるのは、ポケモンの学習機能についての研究だ」 「学習機能?」 「そ。無論、ポケモンとひとくくりに言っても、多数に種類はいるから、その種族ごとに学習機能のよしあしは異なるが……例えば、カロスで有名なサイホーンレース。あれのサイホーンというポケモンは、言ってしまえばかーなーり、頭が悪い」 「悪いほうで例えるんですか」 「反面教師……とは、全然違うが、しかしそこにいる三匹」 博士は、左手の人差し指から順に三本の指で、ポケモンたちを指す(右手には、いつも一冊、本を抱えている。座右の書という奴なのだろうか?)。 「とても賢いのさ、このキキウィ、ヒガルー、アオクマという種族のポケモンはーーあまり私に懐かないよう、二週間前にタマゴを孵したばかりだが、しかし学習量を100段階で表すなら、既に5だ」 「単位が大きすぎて、すごいのかすごくないんだか……」マリンが苦笑とともに言う。 「何を言う。君たちで考えてみたまえ。例え100年間学習する為の時間があったとして、まだ君たちはそのうちの10年しか生きてないだろう」 ジャスミン博士は、立ち上がって言う。 「ものによっては、ポケモンとは私たち人間なんかよりも、ずっとずっと知能において優れているんだ!これは、新たな何かへの可能性だと、私は考えるーー知っているかい?カントーには、喋ることのできるニャースがいるそうだ。ただ、代わりに『ねこにこばん』という技が使えないそうだが……しかし、これはある種の進化といって差し支えないだろう?実に素晴らしい!」 熱く語った博士は、その後に一つ咳をして、そして言った。 「さ。君たちで、ポケモンを選びたまえ。私が干渉する必要はないだろう。するのは、観賞だけで十分だ」 二人とも決まったら、私を呼びたまえ。博士は言う。 「私も忙しいんだ。……こっちゃーん!研究資料のデータベース化はーー」 そうして、ジャスミン博士は別の部屋に入っていった。 「さて……どうする?」 僕は後ろに振り返って言った。 「ラグナが先に選んでいいよ」 「さては僕の選択を見て有利なものを選ぶという魂胆だな。見え見えだぞ」 「あははっ。だってアンタに負けるとささやかな自尊心が傷つきそうだし」 「ひでぇ言い訳だな……弁もとれてねえよ。ま、いいさ。たとえ不利でも、勝ってみせるから」 「言うねえ」 僕は何となく、直感で前に出ーーそして、真ん中にいる一匹のポケモンに手を差し出す。 「今日からお前は僕の相棒だ。よろしくな!」 意を汲んだのか否か、ヒガルーは可愛らしい、しかしそれでいて強さを感じる鳴き声をあげた。 「ふふん。よかったよかった。実は私、このアオクマが良かったんだよね」 マリンはアオクマを抱きかかえた。 「博士ー!終わりましたよー!」 二人で声をそろえてそういうと、ドアの向こうから「もう?まったく……早いな。出来ればもう少し、迷ってて貰いたかった」と、ジャスミン博士の声がした。
失礼しました。御三家の名前が古いものになっていたようです。 正しくは、キキウィ→キルサギ ヒガルー→チュムリス アオクマ→ボンガニです。
御三家はまだ確定してないんだよね
キルサギ、チュムリス、ボンガニは裏御三家にするとかって話もありましたので
とにかく早く決めないとですね、御三家
あと最初の町の名前、ビアンコタウンです。
あっ……頭では分かっていたのに、打ちミスです(言い訳) そうだったんですか……とりあえずは書きつづけますが、決まった時点でまたいろいろ変えていきますね
いちゃもんつけてるみたいで本当すみません・・・実はスイセンにあった後に御三家という順番が・・・ まぁ実際受け取るタイミングが多少変わる程度なので問題はほとんどありませんがw
の、ノベルクオリティということで……すいません
僕がキルサギ、チュムリス、ボンガニをあげたんですけど決定事項で良いんですか?
これってゲーム化する事ってあるんですか? するんだったらROMはなんですか?
多分しないと思いますよ 陰陽もサンムーン云々とかで停止状態にありますし 暫くROM改造はgbaアレンジ以外しないつもりです(ステマ)
最悪天さんってもしかして陰陽の方でしたか?
ええ、その通りです
結局御三家ってどうなったんですかね?
キキウィ、ヒガルー、アオクマで進めるそうです。 裏御三家の方は今検討中です。 なんか俺のせいでゴッチャになったみたいですみません。
002
どうやらお取り込み中らしいジャスミン博士は、 「すまないが、あと15分だけ待っててくれ」 というので、私とラグナは、外で暇を潰すことにした。 外に出てみると、やはり暑かったが、研究所ではエアコンが入っていなかったので、さほど変わらなかったーーむしろ、風がよく通る分、こちらのほうが多少涼しいものだ。 アオクマも外に出て楽しそうだ。 「あ……スイセンの兄ちゃん」 ラグナがそういうので、右を見てみると、そこには近所のお兄さん、スイセンさんがいた。 「おはよう。二人で何してるんだ?」 「見てくれよ、これ」 そういって、ラグナはヒガルーを持ち上げた。 「おっ、ヒガルーじゃんか。珍しい……まさか、それってラグナのポケモンなのか?」 「そう」 「あ、私はこの子」 「そうか、マリンはアオクマ……なんだ、ジャスミンから貰ったのか?」 「そうなんだよ。僕たち、今日から旅に出るんだ」 「まじで!?」 「まじまじ」私が答えた。 「そうか……希望に満ちるお前らを見ていると、なんだか昔を思い出すな」 スイセンさんは、一瞬だけ遠い目をして、そう言った。 「ところで、トレーナーとして旅にでるんだろう?」 にやりとして、彼は言うーー楽しそうだった。 「ちょっと二人で、勝負の一つでもしてみたらどうだ?審判は俺がやろう」 「ポケモン……勝負」 私とラグナは目を見合わせたーー彼はやる気満々のようだ。 うん、上々! 私は勝気な顔でそう言った。
小さいころから、ママが持っていたポケモンについての本はたくさん読んできた。だから、タイプ同士の相性も、完璧に覚えているーー新しく分類されたフェアリータイプだって、ばっちりだ。 今からやる勝負にしたって、負けない……とまでは言えないが、そう簡単に負けるつもりはない。 「今からマリン対ラグナのポケモンバトルを始める!」 スイセンさんが大袈裟にそういい、私たちはモンスターボールを手に取った。 「ふぅ……頑張って、アオクマ!」 「いけっ、ヒガルー!」 モンスターボールを投げると閃光と共にポケモンが現れる。 私はすぐに指示を出した。 「アオクマ、たいあたり!」 「オク、マー!」 可愛らしく鳴き声をあげて、ラグナのヒガルー目掛けて体当たりをするアオクマーーふとラグナの方に目をやると、 「ん……」 黙ったままそこに立っていた。 お互い初めての勝負だが、やはり私の方が知識の面で勝っているようだ。そしてそれは、勝利に直結する。 間もなく、アオクマとヒガルーが衝突した。 「ヒガっ!」 ヒガルーが後ろによろけた。私はそのチャンスを逃さなかったーー 「もう一度、たいあたり!」 はずだった。 「爪を立てろ!」 私が指示を言い終わる直前、ラグナはそう叫んだ。 しまった……爪をただ立てるだけなら、当然たいあたりよりも早く行動ができる。つまり、アオクマのたいあたりを利用した『擬似ひっかく』を繰り出す作戦だ。 「マー!」 二匹とも反動で後退するーーまんまと嵌められた、のだろうか。 いや、しかし。 「ここからならーーまだ勝てる!」 私の言葉に応じるかのように、アオクマもまた元気な声をあげた。 「ヒガルー、なきごえ!」 「ひっがぁぁぁぁぁぅ」 と、先程までよりもずっと可愛らしくなった鳴き声が、ヒガルーから発せられた。 「こっちはたいあたりよ!」 アオクマが、今度は爪を立てる余暇を与えずに攻撃した。 「……っ」 明らかに、今の攻撃ではヒガルーに大したダメージが入っていないことが、見て取れたーーなきごえだ。 「ヒガルー、三歩下がって」 そのまま反撃がくるかと思いきや、むしろ退くよう、ラグナは指示を出した。 なめられているのだろうか。 「反撃してこないって言うのなら……こっちからいくよ!アオクマ、たいあたり!」 アオクマがヒガルーとの距離を縮めていくーー
「ヒガルー、ひっかく!」
しかし、たいあたりが命中することはなく、ヒガルーのひっかくによってアオクマは後退させられた。 「っな……」 どうしてたいあたりが当たらなかったのか? 間合いとリーチ、である。 威力はたいあたりの方が高いものの、たいあたりは自分の体それそのものを相手にぶつけなければならないーー比べて、ひっかくは腕を伸ばして攻撃出来る分、リーチが大きい。 「……っ」 つまり……認めたくはないが、現在、私の方が劣勢にあるということだ。 アオクマは技としてのなきごえは使えないーー相手の攻撃の威力を下げることもできない。 まずいーーどうしたらいい。 「……分かんないや」 この世界に、問題という問題は山ほどあるものだけれど……問題に対する回答が、必ずしも存在するってわけじゃあ、ないのかもしれなかったーー例えば、今とか。 もし私とラグナの間に圧倒的な力の差というものがあるのなら、果たして私は簡単にその勝負を放棄できたであろう。 だけど、そうではなく、絶妙に、あるいはゆっくりと気圧されるように、詰めを狙われているような。 とにかく、なんとか打破できそうなところはあるのだ。ただ、『どのようにして打破するのか』という問いに対し、私は答えを出すことができないのである。 無いもんかしらね、答えって。 全ての問題に対し適切な回答を求めるのは、傲慢なのかもしれないーーむしろ、怠慢、か。 っと、いけない。 分からないとはいったもののーー適切じゃあないかもしれないが、一応の答は出ている。 ふう、と息をついてから、私は自分の左胸に付いている、モンスターボールの形をしたバッジを握り締めた。 やれるだけやろうーー足掻けるだけ足掻こう。なにより、負けるのは嫌だし。 「アオクマ、最後まで頑張ろう!」 まあ、結局負けたんだけどね。
昇天さん小説までかけるとは…尊敬する
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第一話 旅立ちの二人
(この世界に、問題という問題は山ほどあるけど)
マリンは、言い訳、あるいは現実逃避のように、そんなことをふと、思うのだった。
(問題に対する回答が、必ずしも存在するってわけじゃあ、ないのかもねーー例えば、今とか)
ポケモン勝負において、巻く舌もないほどに、圧倒的な力の差というものがあるのなら、果たしてマリンは簡単にその勝負を放棄できたであろう。
しかし、今彼女がおかれている状況は、そうではなくーー絶妙に、あるいはゆっくりと気圧されるように、詰めを狙われているような。
とにかく、なんとか打破できそうなところはあるのだ。ただ、『どのようにして打破するのか』という問いに対し、マリンは答えを出すことができないのである。
(無いもんかしらね、答えって)
全ての問題に対し適切な回答を求めるのは、傲慢なのかもしれない、と彼女は思う。
(むしろ、怠慢、かなあ)
そこまで考えが流れたところで、マリンはいけない、と首を回す。
(まあーー適切じゃあないかもしれないけどさ、一応の答は出てるんだよねえ)
ふう、と息をついてから、彼女は自分の左胸に付いている、モンスターボールの形をしたバッジを握り締めた。
(やれるだけやろうーー足掻けるだけ足掻こう。なにより、負けるのは嫌だし)
とある日の昼、ビアンカタウンでのことだった。
001
僕を呼び起こす声がしたので、飛び起きてみると、それは目覚まし時計の機械音だった。
どうして、普段使っていない目覚ましが、今日に限って?
目覚ましのアラームを止めるのと同時に、その疑問は解決した。
「ああ……そっか」
今日は、旅立ちの日なのだ。
ベッドから降り、カーテンを右にずらすしてみれば、予想通りか、強い日差しが部屋に入る。
旅をする間、いつもこんな日のもとに晒されることになると考えると、少し嫌気もさすが、そのうち慣れるだろうと、僕はカーテンを締めた。
着替えるのだ。今日のために準備した服がある。
服を着替え、部屋を出、一階に降りると、母とマリンがそこにはいた。
「あら、ラグナ。おはよう」
「おはよう、母さん」
続けて、双子の(多分)妹のマリンが挨拶をしようとするが、彼女は朝食のパンを口に突っ込んだままいったので、
「んあ、あうあおあおう」
ちょっと意味が分からなかった。
「うん、おあおう」
そういって、僕はマリンの隣に座る。机上には僕の分の朝食が用意されていた。
これがしばらく食べられなくなるのかと思ってみると、なるほど少し感慨深いものが、そこからは感じられた。
「ついに出発だね」
牛乳で口の中を空にしたらしいマリンが、そう呟いた。
「そうねえ。そういえば、お母さんも、あなたたちと同じくらいの頃、旅に出たのよ」
その話が母の口から出るのは、果たして何回目だろうか。ただ、断る理由もないので、僕は聞き流すように聞くーーマリンも同様の考えのようだ。
「ホームシックってやつかしらね。半年もしないうちに、家に帰っちゃったけど」
あなたたちはちゃんとしなさいよね、と笑いながら言う。
「だってほら、博士から貰うんでしょ?ポケモン図鑑」
「そうだよー」マリナが、(学習したのか)ちょっとだけパンを口に放り込んでから、そう言った。
「ちょっとだけ、面倒だけどね」僕が言った。
「ふふ……目的があるって、いいことじゃない」
目的、かあ……。僕は息を吐くようにそう呟いた。
僕には夢があるのだ。
『ポケモンリーグのチャンピオンを倒し、サザン地方の頂点に立つ』
朝食を食べ終え、玄関でマリンと並んで靴紐を結ぶ。
「なんか、本当に旅に出るんだな」
「当たり前でしょ。……いや、気持ちは分かるけどさ」
母さんは、朝食を食べ終えたあと、「じゃ、頑張ってね。応援してるわよ」と一言だけ言って、二階へと上がって行った。
あっけらかんとしているというかーーまあ、そのほうが気楽でいいが。
旅立ちに悲しみの別れはいらない。
僕は外に出るーーマリンがそれに続いた。
「あっつ……本当に朝なの?」
マリンが顔を歪めて言った。
「おひさまからお祝いの日差しだよ」
「これ以上無く暑苦しいね」
僕の適当な受け答えに、マリンも適当な答え方をする。
家からおよそ三分ほど歩き、着いたそこは、研究所だ。
「おはようございまーす」
鍵がかかっている様子はなく、僕はドアを手前に引き、中に入る。マリンがそれに続く。
「え?ん、ああ……君たちか。おはよう。ひょっとして、いい朝だったりするのかな」
ジャスミン博士は、本当に『おはよう』みたいな感じだったーーきっと仮眠か何かをとっていたのだろう。
『博士』という肩書きを持っている割には、白衣の一つも着ているところを見せないジャスミン博士だがーーしかし実のところ彼女はすごく研究熱心で、多忙なのだ。
「さて、それじゃあ早速ポケモンを渡そうかな」
欠伸をしながらそういって、ジャスミン博士は机の引き出しからモンスターボールを三つつかんだ。……研究職の人って、もっと大事にものをあつかうものだと思ってた。
それから、
「ほれ、二人。キャッチ!」
こちらに向けて、ディスクシューターのように水平になにかを投げてきたーーアルティメットよろしくつかんでみると、果たしてそれはポケモン図鑑であった。
「っちょ、精密機械なんだから、大事に扱わないとなんじゃ……」
僕が多少の怒りを混ぜてそういうと、
「まあまあ。ポケモンの自動認識機能以外は、ただの記録装置だよ。HDDとなんら変わりはないさ」
悪びれる素振りも見せず、そういうのだったーーいや、だからそういう問題ではない。
「さあ、出てこい、新たなる旅立ちのパートナーたち!」
博士は、モンスターボールの中から、ポケモンを出した。
「んじゃ、二人共、図鑑のレンズ部分をポケモンに向けてみて」
言われたとおりにしてみると、図鑑が自動で起動したーーどうやら、ポケモンを認識した時点で、図鑑機能が起動するらしい。
「おお……」
マリンが感慨の声をもらす。
左端の緑色のポケモンにレンズを向ける。図鑑に、そのポケモンの説明が表示されるーーどうやらこのポケモンは、キキウィという名前で、草タイプのポケモンであるらしい。
その隣にいるポケモンは、ヒガルーという炎タイプのポケモンで、もっとも右にいるのがアオクマという水タイプのポケモンだった。
「草、炎、水……綺麗な三竦みですね」
マリンがそういった。
「だろう?ただ、その中から二人で、一匹ずつ選ぶんだーーこれが、つまりどういうことか、分かるかい?」
にやりとして、博士は言った。だから、彼女が言いたいのはこういうことなのだろうーー三竦みであるこの三匹の中から、二匹だけ選ぶと、どちらかが有利に、そしてどちらかが不利になってしまうのだった。
「ええと、博士の性格の悪さがよく分かりますよ」
割と冗談ぬきにそう言ったのだが、当人は気にすることもないようで、あはは、と愉快そうに(あるいは無邪気に)笑った。
「ただ、実際のところ、この三匹のポケモンは君たち初心者トレーナーには、おあつらえのポケモンたちなのだよ」
しゃがみこんでアオクマの頭を撫でながら、博士は言う。
「と、言うと?」
「私はポケモン研究の分野についてはーー有名どころではジョウト地方のウツギ博士なんかはポケモンの繁殖について専門的に研究していたりするのだがーーオールマイティなところがある」
「はあ。それで?」マリンが答えた。
「中でも、私が好んでいるのは、ポケモンの学習機能についての研究だ」
「学習機能?」
「そ。無論、ポケモンとひとくくりに言っても、多数に種類はいるから、その種族ごとに学習機能のよしあしは異なるが……例えば、カロスで有名なサイホーンレース。あれのサイホーンというポケモンは、言ってしまえばかーなーり、頭が悪い」
「悪いほうで例えるんですか」
「反面教師……とは、全然違うが、しかしそこにいる三匹」
博士は、左手の人差し指から順に三本の指で、ポケモンたちを指す(右手には、いつも一冊、本を抱えている。座右の書という奴なのだろうか?)。
「とても賢いのさ、このキキウィ、ヒガルー、アオクマという種族のポケモンはーーあまり私に懐かないよう、二週間前にタマゴを孵したばかりだが、しかし学習量を100段階で表すなら、既に5だ」
「単位が大きすぎて、すごいのかすごくないんだか……」マリンが苦笑とともに言う。
「何を言う。君たちで考えてみたまえ。例え100年間学習する為の時間があったとして、まだ君たちはそのうちの10年しか生きてないだろう」
ジャスミン博士は、立ち上がって言う。
「ものによっては、ポケモンとは私たち人間なんかよりも、ずっとずっと知能において優れているんだ!これは、新たな何かへの可能性だと、私は考えるーー知っているかい?カントーには、喋ることのできるニャースがいるそうだ。ただ、代わりに『ねこにこばん』という技が使えないそうだが……しかし、これはある種の進化といって差し支えないだろう?実に素晴らしい!」
熱く語った博士は、その後に一つ咳をして、そして言った。
「さ。君たちで、ポケモンを選びたまえ。私が干渉する必要はないだろう。するのは、観賞だけで十分だ」
二人とも決まったら、私を呼びたまえ。博士は言う。
「私も忙しいんだ。……こっちゃーん!研究資料のデータベース化はーー」
そうして、ジャスミン博士は別の部屋に入っていった。
「さて……どうする?」
僕は後ろに振り返って言った。
「ラグナが先に選んでいいよ」
「さては僕の選択を見て有利なものを選ぶという魂胆だな。見え見えだぞ」
「あははっ。だってアンタに負けるとささやかな自尊心が傷つきそうだし」
「ひでぇ言い訳だな……弁もとれてねえよ。ま、いいさ。たとえ不利でも、勝ってみせるから」
「言うねえ」
僕は何となく、直感で前に出ーーそして、真ん中にいる一匹のポケモンに手を差し出す。
「今日からお前は僕の相棒だ。よろしくな!」
意を汲んだのか否か、ヒガルーは可愛らしい、しかしそれでいて強さを感じる鳴き声をあげた。
「ふふん。よかったよかった。実は私、このアオクマが良かったんだよね」
マリンはアオクマを抱きかかえた。
「博士ー!終わりましたよー!」
二人で声をそろえてそういうと、ドアの向こうから「もう?まったく……早いな。出来ればもう少し、迷ってて貰いたかった」と、ジャスミン博士の声がした。
失礼しました。御三家の名前が古いものになっていたようです。
正しくは、キキウィ→キルサギ ヒガルー→チュムリス アオクマ→ボンガニです。
御三家はまだ確定してないんだよね
キルサギ、チュムリス、ボンガニは裏御三家にするとかって話もありましたので
とにかく早く決めないとですね、御三家
あと最初の町の名前、ビアンコタウンです。
あっ……頭では分かっていたのに、打ちミスです(言い訳)
そうだったんですか……とりあえずは書きつづけますが、決まった時点でまたいろいろ変えていきますね
いちゃもんつけてるみたいで本当すみません・・・実はスイセンにあった後に御三家という順番が・・・
まぁ実際受け取るタイミングが多少変わる程度なので問題はほとんどありませんがw
の、ノベルクオリティということで……すいません
僕がキルサギ、チュムリス、ボンガニをあげたんですけど決定事項で良いんですか?
これってゲーム化する事ってあるんですか?
するんだったらROMはなんですか?
多分しないと思いますよ
陰陽もサンムーン云々とかで停止状態にありますし
暫くROM改造はgbaアレンジ以外しないつもりです(ステマ)
最悪天さんってもしかして陰陽の方でしたか?
ええ、その通りです
結局御三家ってどうなったんですかね?
キキウィ、ヒガルー、アオクマで進めるそうです。
裏御三家の方は今検討中です。
なんか俺のせいでゴッチャになったみたいですみません。
002
どうやらお取り込み中らしいジャスミン博士は、
「すまないが、あと15分だけ待っててくれ」
というので、私とラグナは、外で暇を潰すことにした。
外に出てみると、やはり暑かったが、研究所ではエアコンが入っていなかったので、さほど変わらなかったーーむしろ、風がよく通る分、こちらのほうが多少涼しいものだ。
アオクマも外に出て楽しそうだ。
「あ……スイセンの兄ちゃん」
ラグナがそういうので、右を見てみると、そこには近所のお兄さん、スイセンさんがいた。
「おはよう。二人で何してるんだ?」
「見てくれよ、これ」
そういって、ラグナはヒガルーを持ち上げた。
「おっ、ヒガルーじゃんか。珍しい……まさか、それってラグナのポケモンなのか?」
「そう」
「あ、私はこの子」
「そうか、マリンはアオクマ……なんだ、ジャスミンから貰ったのか?」
「そうなんだよ。僕たち、今日から旅に出るんだ」
「まじで!?」
「まじまじ」私が答えた。
「そうか……希望に満ちるお前らを見ていると、なんだか昔を思い出すな」
スイセンさんは、一瞬だけ遠い目をして、そう言った。
「ところで、トレーナーとして旅にでるんだろう?」
にやりとして、彼は言うーー楽しそうだった。
「ちょっと二人で、勝負の一つでもしてみたらどうだ?審判は俺がやろう」
「ポケモン……勝負」
私とラグナは目を見合わせたーー彼はやる気満々のようだ。
うん、上々!
私は勝気な顔でそう言った。
小さいころから、ママが持っていたポケモンについての本はたくさん読んできた。だから、タイプ同士の相性も、完璧に覚えているーー新しく分類されたフェアリータイプだって、ばっちりだ。
今からやる勝負にしたって、負けない……とまでは言えないが、そう簡単に負けるつもりはない。
「今からマリン対ラグナのポケモンバトルを始める!」
スイセンさんが大袈裟にそういい、私たちはモンスターボールを手に取った。
「ふぅ……頑張って、アオクマ!」
「いけっ、ヒガルー!」
モンスターボールを投げると閃光と共にポケモンが現れる。
私はすぐに指示を出した。
「アオクマ、たいあたり!」
「オク、マー!」
可愛らしく鳴き声をあげて、ラグナのヒガルー目掛けて体当たりをするアオクマーーふとラグナの方に目をやると、
「ん……」
黙ったままそこに立っていた。
お互い初めての勝負だが、やはり私の方が知識の面で勝っているようだ。そしてそれは、勝利に直結する。
間もなく、アオクマとヒガルーが衝突した。
「ヒガっ!」
ヒガルーが後ろによろけた。私はそのチャンスを逃さなかったーー
「もう一度、たいあたり!」
はずだった。
「爪を立てろ!」
私が指示を言い終わる直前、ラグナはそう叫んだ。
しまった……爪をただ立てるだけなら、当然たいあたりよりも早く行動ができる。つまり、アオクマのたいあたりを利用した『擬似ひっかく』を繰り出す作戦だ。
「マー!」
二匹とも反動で後退するーーまんまと嵌められた、のだろうか。
いや、しかし。
「ここからならーーまだ勝てる!」
私の言葉に応じるかのように、アオクマもまた元気な声をあげた。
「ヒガルー、なきごえ!」
「ひっがぁぁぁぁぁぅ」
と、先程までよりもずっと可愛らしくなった鳴き声が、ヒガルーから発せられた。
「こっちはたいあたりよ!」
アオクマが、今度は爪を立てる余暇を与えずに攻撃した。
「……っ」
明らかに、今の攻撃ではヒガルーに大したダメージが入っていないことが、見て取れたーーなきごえだ。
「ヒガルー、三歩下がって」
そのまま反撃がくるかと思いきや、むしろ退くよう、ラグナは指示を出した。
なめられているのだろうか。
「反撃してこないって言うのなら……こっちからいくよ!アオクマ、たいあたり!」
アオクマがヒガルーとの距離を縮めていくーー
「ヒガルー、ひっかく!」
しかし、たいあたりが命中することはなく、ヒガルーのひっかくによってアオクマは後退させられた。
「っな……」
どうしてたいあたりが当たらなかったのか?
間合いとリーチ、である。
威力はたいあたりの方が高いものの、たいあたりは自分の体それそのものを相手にぶつけなければならないーー比べて、ひっかくは腕を伸ばして攻撃出来る分、リーチが大きい。
「……っ」
つまり……認めたくはないが、現在、私の方が劣勢にあるということだ。
アオクマは技としてのなきごえは使えないーー相手の攻撃の威力を下げることもできない。
まずいーーどうしたらいい。
「……分かんないや」
この世界に、問題という問題は山ほどあるものだけれど……問題に対する回答が、必ずしも存在するってわけじゃあ、ないのかもしれなかったーー例えば、今とか。
もし私とラグナの間に圧倒的な力の差というものがあるのなら、果たして私は簡単にその勝負を放棄できたであろう。
だけど、そうではなく、絶妙に、あるいはゆっくりと気圧されるように、詰めを狙われているような。
とにかく、なんとか打破できそうなところはあるのだ。ただ、『どのようにして打破するのか』という問いに対し、私は答えを出すことができないのである。
無いもんかしらね、答えって。
全ての問題に対し適切な回答を求めるのは、傲慢なのかもしれないーーむしろ、怠慢、か。
っと、いけない。
分からないとはいったもののーー適切じゃあないかもしれないが、一応の答は出ている。
ふう、と息をついてから、私は自分の左胸に付いている、モンスターボールの形をしたバッジを握り締めた。
やれるだけやろうーー足掻けるだけ足掻こう。なにより、負けるのは嫌だし。
「アオクマ、最後まで頑張ろう!」
まあ、結局負けたんだけどね。
昇天さん小説までかけるとは…尊敬する