Apple時価総額28兆円減 「中国政府iPhone禁止」の報道
7日の米株式市場で、アップル株が連日の大幅安となった。中国政府が政府機関や国有企業の職員に対し、主力製品「iPhone」の使用禁止を広げると報じられたことがきっかけだ。時価総額は2日間で約1900億ドル(約28兆円)減った。詳細は明らかになっていないが、製販両面で重要拠点である中国市場での苦戦が懸念されている。
テクノロジー分野をめぐる米国と中国の覇権争いが、個別企業や市場にも大きな影響をおよぼす局面になってきた。
ソニー1.8社分の価値喪失
7日はダウ工業株30種平均が3日ぶりに反発するなか、アップル株の下げが目立った。2日間の株価下落率は6.4%におよび、QUICK・ファクトセットによると、時価総額は1920億ドル減少した。日本企業で2位につけるソニーグループの1.8倍の企業価値が短期間で失われた計算になる。
アップルの時価総額は400兆円超と世界最大で、日本の国内総生産(GDP)の6割強に匹敵する。こうした超大型株としては異例ともいえる大きな値動きが続いている。
株価下落の主因は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの報道だ。中国政府が政府職員に対し、iPhoneなど海外スマホの業務使用と職場への持ち込みを禁じたと6日に報じた。米中対立の激化で一部は以前も業務利用を制限されており、今回は対象が拡大したとみられる。
米ブルームバーグ通信は対象が国有企業にも広がる可能性があり、対象者らは職場以外でも使えなくなると指摘した。中国国家統計局によると、国有企業の従業員数は都市部だけで5600万人超におよぶ。地方も含めると影響は甚大で、iPhoneの販売減につながりかねない。
売上高の2割が中華圏
アップルにとって中国は最重要市場の1つだ。2023年4〜6月期の売上高817億9700万ドルのうち、中国や台湾、香港を含む「中華圏」は約2割を占めた。米中対立が深まる中でもアップルは中国重視の姿勢を変えず、3月にはティム・クック最高経営責任者(CEO)が北京を訪れて事業強化を訴えた。
中国は生産拠点としても、アップルの生命線を握る。22年は新型コロナウイルスを厳しく封じ込める中国政府の「ゼロコロナ政策」で、中国内陸部にある生産委託先工場の稼働が低下。iPhoneの上位機種の供給に影響が出た。
サプライチェーン(供給網)の偏りによるリスクを減らすために、足元ではインドやベトナムに拠点を分散するが、中国への依存度はなお高い。
米中が激しくつばぜり合いを演じるなか、アップルは「漁夫の利」を得てきた面も大きい。
米国は19年から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への高性能半導体の禁輸を相次いで強化した。ファーウェイは高速通信規格「5G」の対応スマホの生産が難しくなり、米バンク・オブ・アメリカによると、19〜22年にファーウェイは高価格帯スマホの出荷が6220万台減った。一方でアップルは2840万台増えたという。
ファーウェイが脅威に
だがファーウェイが23年8月に発売したスマホには、自社開発した半導体を搭載した。回路線幅は7ナノ(ナノは10億分の1)メートルで、5Gに対応する比較的性能の高いチップとみられる。販売面でアップルの競争優位性が薄れるとの指摘も出始めた。
両社と取引のある米半導体大手のクアルコムは、7日の株価終値が前日比7%安となった。ファーウェイの内製化とアップルの販売減という両面で、クアルコム製部品の需要が減るとの懸念が広がった。7日の東京株式市場でも村田製作所など電子部品銘柄が大幅安となり、影響は広がる一方だ。
最大1000万台に影響
市場関係者は中国でのiPhoneの年間販売台数を約4000万〜5000万台と予測する。今回の中国政府機関の利用禁止によって、バンク・オブ・アメリカは「最大500万〜1000万台に影響が出そうだ」とみる。一方で「影響は50万台未満にとどまり、今後もシェアを拡大できる」(ウェドブッシュ証券)との見方もある。
6日には欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が、巨大IT(情報技術)企業の活動を規制するデジタル市場法(DMA)の対象にアップルを指定した。今後は外部のアプリストアの受け入れといった対応が迫られる。アップルは12日に「iPhone15」とされる新シリーズのお披露目を控えているが、多くの逆風下での発表となる。