INPEXはインドネシア天然ガス開発事業「アバディ」向け投資資金の全額を借り入れや自己資金で賄う方針だ。総事業費は3兆円規模と見込まれている。足元のキャッシュフロー(現金収支)が改善しており、増資による資金調達は不要と判断した。2018年稼働のオーストラリアのガス開発事業「イクシス」では資金の一部を公募増資で調達し、今回も調達手段が注目されていた。
アバディはインドネシア東部沖で天然ガスを産出し、陸上のプラントで液化する事業だ。液化天然ガス(LNG)の年間生産量は950万トンと、日本のLNG輸入量の1割強に相当する。1998年に鉱区の権益を取得した。
INPEXが65%、残りを英シェルが出資する。インドネシア国営石油プルタミナとマレーシアの同業ペトロナスが23年中にシェルの全持ち分を買い取り参画することが決まっている。
インドネシア政府は19年にアバディの開発費用を185億〜198億ドル(約2兆7000億〜約2兆9000億円)と想定していた。INPEXが23年4月に同国当局に出した開発計画で、採掘により生じる二酸化炭素(CO2)をガス田に埋め戻す方針を示したことから、開発費用はこれよりも増える見通し。INPEXは総事業費のうち出資比率に相当する分を引き受ける。
INPEXの上田隆之社長は日本経済新聞の取材に対し、アバディ開発費用の調達手段について「増資は不要だ」と話した。開発コストを見極めたうえで「早ければ26年にも最終的な投資判断をしたい」と述べた。24年に生産設備の基本設計に着手する。最終投資決定までの費用として数億ドルを投じる。
金融機関からの借り入れに先立ち、LNGの長期契約を結ぶ買い手を見つけ、収入確保のメドを示す必要がある。「すでにいろいろな需要家と接触している」(上田社長)。生産開始時期については従来計画では30年代初頭とする。現在プルタミナとペトロナスと前倒しを含めて協議中だ。
上田社長は資金調達を増資に頼らずに済む理由として「イクシスにより安定的にキャッシュを稼ぐ会社になった」と指摘する。LNGを販売する持ち分法適用会社を含めたイクシスは円安や資源高も重なり、22年12月期に純利益ベースで約2900億円と全体の66%を稼いだ。
イクシスの販売収入を含む営業キャッシュフローは前期に1兆616億円の黒字と前の期比81%増えた。23年12月期も9000億円程度の黒字を確保する見通しだ。
財務も改善している。22年12月期の純負債資本倍率(ネットDEレシオ)は0.46倍と、24年12月期までに0.5倍以下にする目標を前倒しで達成した。23年6月末時点の有利子負債も約1兆4000億円と、目標の1兆5000億円程度よりも減った。
格付投資情報センター(R&I)によると、長期格付けはダブルAだ。仮にネットDEレシオで1倍までを許容すれば、単純計算で有利子負債を2兆円ほど増やす余地がある。
12年に最終投資決定したイクシスは、総事業費が4兆円にのぼった。INPEX(当時は国際石油開発帝石)は投資資金として国際協力銀行(JBIC)やメガバンクなどと160億ドルの協調融資契約を結んだほか、10年には公募増資で約5200億円を調達した。当時、増資による1株価値の希薄化が嫌気され、株価が大きく下落した。
みずほ証券の新家法昌シニアアナリストは「今後はアバディのLNG生産量を長期契約でどれだけカバーできるかが焦点」と指摘する。イクシスは生産するLNGのほとんどを日本企業などに長期契約で供給する。
だが天然ガスは脱炭素を受けて需要見通しが不透明となり、長期契約の買い手を探しにくくなっている。価格の変動しやすいスポット(随時契約)取引による販売が増えれば、キャッシュフローは不安定となりかねない。