老後について考える・・必見です・・「孫の守」「先人の知恵の伝承」?生物学的に不利な状態を何故、許容したのか?
「老後」とは生物学的にいつからなのかいつからが「老後」なのか?
多くの生物にとって、老化して動きが緩慢になることは生存には不利なので、老化、つまり体がだんだん衰えていく状態は、積極的に選択されてきたものではなかったと思われます。つまり普通に考えれば、老化なんかないほうがいいのです。「老化がない」というのはどういうことかというと、死は必然なので「不老不死」になるというわけでなく、老いずに死ぬ、つまり「ピンピンコロリ」と死ぬことを意味します。
ヒト以外の動物は、老いの自覚症状を自己申告する、たとえば「最近老眼になってね、近くのものがよく見えないんだよなー」などとは言えません。ですので単純に、子供の産める期間まで、つまり「未成熟期および生殖可能年齢」を、老いていない期間「非老後期間」としています。子供が産めるメス(ヒトの場合は女性)は、まだまだ若い(老いていない)とみなすわけです。
まずヒトの場合を見てみましょう。
ヒトは、50歳前後で閉経を迎える女性が多いです。つまりはこの時期で排卵がなくなるので、以降は子供を産めません。その前後でのホルモンバランスの変化(いわゆる更年期症状)によって体の不調を訴える方もいますが、それ以外の肉体の衰えはそれほど顕著ではないと思います。ただ他の動物との比較の都合で、ヒトの場合も閉経を老いの境界線として使っています。
ヒトでは、未成熟期間も含めた生殖可能年齢、つまり「老いていない期間」は閉経までの約50年で、その後の亡くなるまでの期間が約30年あります。つまり生物学的には、人生の約40%の期間が産むという機能を喪失した、ある意味老化した「老後」となります。
さて、ここで着目していただきたいのは、ヒトと同じ大型霊長類であるゴリラとチンパンジーです。彼女らも大体ヒトと同じ時期に閉経を迎えますが(グラフの黒いバーはほぼ同じ長さ)、その後の灰色のバーはほとんどありません。つまり子供が産めなくなったらすぐに寿命を迎えて死んでしまい、老後はないのです。
他の哺乳動物を見てみると、クジラの仲間であるシャチとゴンドウクジラはヒトほどではないのですが、老後があります。しかしそれ以外の生物は、なんとほとんど「老後」はありません。死ぬまで子供が産めるのです。驚きですね。ヒトとシャチ、ゴンドウクジラの共通点は子育てにあります。これは後ほど紹介します。
この結果が意味していることは二つあります。一つは、これまでにお話ししたように老後のある生物は例外的で、普通はないということ。もう一つは、老後の存在はそれぞれの生物の共通の祖先から受け継いだ性質ではなく、その種固有の性質だということです。系統的に近い種、たとえばクジラの仲間でもシャチとゴンドウクジラだけだったり、同じ大型類人猿でもヒトだけだったり、さまざまです。つまり、たまたまその種だけが獲得した性質なのです。
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