液化石油ガス(LPG)の大型運搬船(VLGC)の運賃が2週間で6割高と急騰し、過去最高値圏にある。中東での原油の減産に伴い、ともに精製するLPGの生産も減り価格が上昇。相対的に割安になった米国産の需要が高まった。アジア向けに輸送距離の長い米国からの輸送が増え、船の不足感が強まった。
金融情報会社リフィニティブによると、VLGCの主要航路である中東―極東航路のスポット(随時契約)運賃は14日時点で1トン155.4ドル。2022年11月の148ドル台を上回り、遡ることができる02年12月以降で最高値を更新した。
燃料費によるものの、50ドル程度なら現在運航している平均的な船の運航の採算が取れる水準だという。今は採算ラインの3倍という高水準にある。
主因は米国からの輸出の増加だ。化学原料向けの需要が中心の米国では、シェール革命による供給の増加ほどには内需が増えていない。在庫も高水準のため価格上昇が限定的だ。原油減産に伴い価格上昇が目立つ中東産に比べ相対的な魅力が高まった。
海運会社のENEOSオーシャン(横浜市)の担当者によると「貨物の価格と運賃の合計で米国産が割安なため、アジアの需要国が輸入を増やしている」という。米国からアジアに向かうには中東発よりも輸送距離が長く、1航海あたりの日数が長いため新たに契約できる船が減り、供給が不足しやすい。
アジアの需要も堅調だ。中国では、LPGの一種であるプロパンからプロピレンを作るPDHプラントの新たな稼働が増え、輸入が増えている。LPGと並び石油化学製品の原料となるナフサ(粗製ガソリン)と比べ割安な状態も続いているため、どちらの原料にも対応できるプラントはLPGの買いを増やしているとみられる。
7月以降はパナマ運河に水を供給する湖の水位低下による、通航隻数の減少や予約システムの変更などの影響も出ている。米メキシコ湾からアジアに向かうVLGCの多くがパナマ運河を通る。待ち時間が延びたり、混雑を避けてスエズ運河経由など遠回りをしたりしたことで、船の不足に拍車をかけた。
新造船の竣工の遅れも重なった。シンガポールの海運会社BWLPGによると、世界でVLGCの新造船の竣工は4〜6月に、事前に予想されていた10隻に対して6隻にとどまった。23年の竣工隻数も5月下旬時点で45隻の予想だったが、8月下旬時点では3隻が24年にずれ込む予定で、42隻に減った。人手不足や供給網の混乱による部品不足などで工程が遅れているようだ。
近年ではLPGの暖房向け需要が高まる冬に向けてVLGC運賃も上昇する傾向にあり、今後も高水準で推移するとの見方が多い。
ただ、経済回復が遅れている中国の需要は不確定要因だ。石化製品需要が鈍いことや、PDHプラントも稼働率が低下しているとの指摘もある。これまでのLPG輸入も旺盛で在庫が積み上がっていれば、今後輸入の勢いが衰えVLGC運賃の下落要因となる可能性がある。