俺、野村宏一は、某私立中学校に通う中学3年生。
他人と違うことと言えば、「自分の前世を明確に覚えていること」。
前世での名は三島謙治。生きていれば40をとうに過ぎだったはずだが、15年前に交通事故で死んでしまい、奇しくも幼なじみの野村健一朗の息子として生まれ変わってしまったのだった。この事実を知っているのは"父母"である健一朗と則子のみ。
幼なじみとは言え所詮は他人。明確に「三島謙治」としての意思や歴史を持っている宏一は、健一朗と則子の実の子供といえど、明らかに"異物"であった。
自分の家なのに、自分の家族なのに、まるで他人の家に転がり込んでいるような居心地の悪さ。生前にほとんど面識の無かった則子のことを、「お母さん」と呼んだことは一度もない。そして、母親の強い希望があって生まれた年の小さな妹。
何のために生きているのか、どうして生まれてきたのか、なんのために存在しているのか。ふとした瞬間に沸き上がってくる、"恐れ"にも似た自問自答。そしてやり場のない"怒り"。
ストレス解消のために、学校に行けば気にくわないヤツをイジメ抜く。自分の行動によって他人が不幸になっているのが愉快でしょうがない。「俺は他人をどうにかすることができるんだ」という優越感。
時に狂いそうになりながらも毎日を生きている中、通りすがりの電柱に落書きに目を留める。
「変えられない事実を受け入れる力を、私に下さい」。
宏一は、この言葉にハッとする。俺にもそんな力があるのだろうか。そんな力が欲しい。もがき続ける宏一。
やがて宏一は、生きるヒントを探るべく、前世である「三島謙治」の軌跡を辿ることにした。旧友とのコネクションを作ってもらうべく、夕食の際に健一朗にその案を話すと、健一朗は頑なにそれを却下した。
「お前は"野村宏一"だ。むかしのことを探っても前には進めない。余計なことはするな」
健一朗に期待できない宏一は、独自に旧友をあたり、生前に付き合っていた彼女である"涼子"が、三島謙治の亡き後、他の男性と家庭を持って近くに暮らしていることを知る。
涼子に息子がいるのを知った宏一は、それが自分の子供ではないのかと考えたがすぐにそれを脳裡で打ち消す。「未婚で子供を産んで他の男と結婚するなんてことは無いだろう。
ある日、宏一は涼子の息子の年齢を知る。涼子の息子は、三島謙治が生きていた時に作られた子供でしか有り得なかった。
「もしかして本当に俺の子供なのか」。興奮が収まらない宏一は毎日のように涼子の住む家の近くまで足を運び、やがて近くのスーパーマーケットで、涼子と夫、その夫にソックリな息子の姿を目にすることになる。
「どうして俺の子供のはずなのに、アイツにソックリな子供がいるんだ?」
事情を知っているであろう健一朗に問い糾す宏一。そして宏一が知った事実は、「涼子は三島謙治と付き合っていたとき既に、現在の夫の子供を身ごもっていた」ということ。
狂ったように騒ぐ宏一。自らの理不尽すぎる運命に対する怒り、怒り、怒り。
途轍もない"絶望"。もはや誰を信じることもできない、誰にも裏切られたくない、誰にも依存したくない。
誰とも関わりたくない。
これでも俺には、「変えられない事実を受け入れる力」が必要なのか。どうして俺を殺してくれなかったんだ、どうして俺はこの世に生まれてきたんだ。
宏一は、家を飛び出し、鉄路を走る列車に身を投じた。
享年、15歳。
次の輪廻転生、未定。