トリックス・ファイン&ミョールズ
「なあ、本当にスカートっての似合ってるか?」トリックスに聞く。何度目だっけ。
「自分が一番わかってるんじゃないの?」うぅ。自分への視線は悪いやつじゃないのはわかる。でもこのカッコ、スポーツやる時邪魔っちいんだよな。割と好きなのはその、否定しないけど。
「今考えてたこと、わかるよ。僕に任せな。先生から貰ってきてあげる。自分で行くのは恥ずかしいでしょ?」何もかもお見通しだ。大人しく従う。
それで貰ってきたのは、すごく短いスカート。上も袖がないやつ。
「チアリーディングって言うらしいよ。激しい動きをするための女装なんだって。」
女装にも色々種類があるんだなあ。先生はなんでも持ってるし知ってる。女装って言葉が男らしい行為なんだってのも教えてくれた。
とりあえず着替える。服を脱いで、持ってきてくれた方に着替える。トリックスが面白そうに見つめてる。
うっ。すごいすーすーする。でもこれは確かに動きやすそうだ。
「ありがとうトリックス!」
そう言って、グラウンドに向けて出て行く。
周りの目がいつもよりさらに変だ。うーん。わかんないなあ。
「さすがにあれは逮捕されそうじゃな。まあここでは捕まらんが。」
学長は呟く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バルベロ&バルベロ[オルタ]
全ての敵は消えた。私が死ねば聖杯の汚染は完全なものになる。そしてマスターはそれで願いを叶える。
私には力がない。それは自害する力がないことも意味している。マスターに頼むしかない。
「『私のための神話』。私を切り刻みなさい。粉々にしなさい。殺しなさい。」
全ては意のまま。躊躇いなくマスターは剣を向ける。
一度や二度切られただけじゃ消滅できないのが困り物だ。
激痛。激痛。激痛。激痛。痛みがなくなるまで切り刻まれても、まだ足りない。跡形もなく消し去る力が『私のための神話』には足りない。でも、いつかは消えれるのだから。聖杯を汚染できるのだから。この酷い世界を破壊できるのだから。
ようやく意識が消えてきた。歓喜に叫びたいところだけど、もう喉はない。ああ、さようなら。
そうして神の不在は達成される。ゆっくりと着実に浸透する。そうしてそれは世界を満たす。嘆きが世界を覆う。ーーーー母性愛、発現。
私は真に目覚めた。わかる。この世界は私を求めている。再び救世の聖母となれる。救おう。全ての人を高次へと。誘おう。全ての人を真なる世界へと。
だってもう、偽りの神は信じられていないのだから。永遠のアイオーンの救いを。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
永絶闘争螺旋 ファイロジュラシック
一撃目。一斉掃射。万を超える軍勢が巨大な竜に群がる。並の幻想種なら百万回は殺せるだけ殴った。傷は見えなかった。
ニ撃目。武器を変えて即座に追撃。相変わらず傷はつかない。バハムートがこちらに気付いた。
三撃目。半数は吹き飛ばされた。胃酸の濁流を避けきれなかった。でもまだこちらは終わっていない。
四撃目。あと何度、何年。その先にこいつを討ち斃せる?そんな疑問は沸いてきた。
最早残りは1000人ほど。しかし精鋭。必ず、いつか。
五撃目。わずかに傷が見えた気がした。即座に塞がった。必死に逃げる。最早目的は生き延びることにすげかわっていた。
六撃目。そんなものはない。頼む。逃げさせてくれ。もう俺だけじゃないか。見逃してくれてもいいじゃないか。声を荒げた。聞くはずのない敵に問う。お前は何がしたいんだと。答え代わりに、胃酸が飛んできた。
我は神を踏みにじらねばならない。神の似姿が許されるはずがない。ここに必要なのは純粋なる生態系。さあ、何度でも滅してやろう。
一撃目。死力を振るう。きっといつか、我々の先に。何万回蹴散らされても。先人に敬意を払い、死へと身を投じる。無駄ではないと、信じているから。戦い続ける。
アルヴィース・デュオ・ホーリーエイド
わし、結構大変なんじゃよ。これ。ずっとこの喋り方なのはもう慣れたが。必ず卒業させる都合上、常にブランドというものを維持せねばならん。
そのために必要なのが、ろくでなしを輩出しないことじゃ。今んところ悪名を轟かせおった奴はいない。必ず学内で徹底的に矯正する。非道を手段から目的にすげ替えてしまう奴は本当に多いからの。
まあわしは聖導術で生贄とか使っとるから言えるが、こういうことが悪いというのではない。無意味な行為に身を投じるなとも言わん。根源の否定などわしにもできんよ。
わしはまあ、諦めたといえば諦めているかも知らんな。俗世的な感性の方が素晴らしいと思ってしまった。簡単に言えば、魔術師らしい魔術師なんてこっからは出してやらん。絶対に理性の基準は常人のそれに仕立て上げる。
こんなことを言えるのは、わしが既に歪みきっているからではあるが。魔術師としても人としても。だが知識として教えることはできるんじゃよ。理想を語りそれを実現する。それはどんな外道にでもできる。だからそれをしているだけじゃな。
しかし。最近は少し危うい感じはあるの。わしも捻くれ者を拾ってきとるが。
まあ。どうにもならないなら消すかの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
癌の膿
このクソ学園のいいところは、鍵をかけて眠れることだ。本当に、生きてるってのはそれだけで苦痛だ。死ぬことがそれ以上に苦痛だから避けてるだけだ。
だから寝る。安らかな睡眠と死は同一に近いと思っている。今までまともに寝れたことなんてなかったからな。ここは素直に恩恵に預かっている。
しかし睡眠の困ったところは、ずっと寝てられないことだ。死ぬことを永眠なんて言うらしいが、本当にそうなら永眠してみたいもんだ。
俺は別に死にたいとは思わない。生きてるだけで苦痛だろうが。
絶対に一人では死んでやらない。そう、あの時だって。全部ぶっ壊して価値ある死に方をしてやろうとしたんだ。なのに生き残った。悪運とはこのことだ。
もしかしたら、案外天寿を全うさせられるかもしれないな。それは別に面白くないが。眠るように死ねるというのが本当なら、一番心地いい睡眠になるかもしれない。
ああ、このクソ学園のよくないところだ。授業に出ないと仕置きを喰らう。流石に苦痛を喜ぶ趣味はない。さて、そろそろ行くか。
…気になるのは、前のガキ。自分が一番可哀想なんて顔してるのは人のことは言えないが。
単なる同族嫌悪だとしても。あれだけは不愉快だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家族王キング・アーサー
悲しい知らせだ。この『大騎士王とその大円卓、そして仲睦まじき大家族』に抵抗しようという集団が現れたらしい。みな私の家族となるべき存在。殺したいとは思わない。私がいる限り、すべての円卓の騎士は不死、そうだとしても、私自身が出向いて説得しなければ。
門をくぐり直接その集団の本陣へ向かう。大量のサーヴァント。私に対抗するため召喚されたのか。しかしそれはあくまで付き従う存在。敵の総大将は少年だった。
彼は言う。今の世界を壊さないでくれと。理解できなかった。私は不死と家族愛を伝えるだけの存在なのに。それで壊れる世界など、良いものとは言えないのではないか。
彼は言う。死は決して不要なものでない。敵意も同じだと。それがなくなれば世界は停滞してしまうと。それの何がいけないのだろう。幸せな状態で止まるのなら、とても素敵じゃないか。
問おう。永遠に成長しないことの何が悪いのか。
問おう。悲劇など、憎しみなど、なければ全てが幸せではないか。
問おう。そもそも目的を達成したら消えゆく私を、王の座から引きずり下ろすことになんの意味があるのか。
彼はそれでも意見を変えない。ならば。
問おう。我が聖剣に耐えられるか。