ケルベロスではない&泥新宿のムーンキャンサー
喰らう。生きるために。それが今までの連鎖。我々の宿命。人を喰らい。人に狩られる。それをどちらかが果てるまで続ける。
新宿に降り立った三つ首の魔犬。それぞれの幻霊は、純粋に生きようとしたものたち。そして絶やされたものたち。
追い立てる。狼の群れを指揮し、人を分断する。取り残されたご馳走を噛みちぎる。それを繰り返す。繰り返すうちに、敵は団結する。当然だ。こちらも群れが増えてゆく。これも当然。
「やあ、君も動物だね。一緒だね。」
不意に小さな兎が飛び出してきた。サーヴァント。餌としては上等だ。
「見てられないから。人が死んでいくのは。恨みはないけど、止めてもらうよ。宝具展開。『幻想映す表面世界』。」
そうして辺りは一変する。いつのまにか、敵は様々の幻想と、巨大な蟹。それだけになっていた。
高らかに吠える。全ての狼を呼ぶ。数はこちらが上。あの巨大な奴をどう調理するか。何度やり直しても、絶対に喰らい尽くす。
「さて。僕を殺せば結界は解ける。でもそうはさせないよ。」
そう兎がほざく。言われなくとも。真っ向から全てを喰らってやる。
あれだけの大きさなら食い扶持がありそうだ。
狼は、あくまで全てを喰らうだけ。
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ショート・ショート
「ああ!マスター!あなたも死んでしまうのですか!もう少しで答えが見えそうだったのに!」
俺のサーヴァント、ディエティは大層大袈裟に悲しむふりをして見せる。お前が使えないのが悪いんだろうが。
ペラペラペラペラ喋るだけ。おかげで俺は一人で戦わされ、瀕死の重症だ。
「うるさい。…それより。話を聞かせろ。」
ひとつだけこいつには取り柄があった。小咄がうまい。どうせ死ぬなら、最後に笑いながら死にたいじゃないか。そうしたら。
「ああ!こんな!死の直前でも!だからこそ!ショート・ショートを求めるのですね!ありがとうございますマスター。『もう少し』に到達しました!」
何を言っているのかわからない。ディエティは突然天高く舞い上がった。声が聞こえる。
「世界中の皆様に問いましょう!これは小咄ですが、ジョークではありません!あなた方の願いを一つだけ!叶えて差し上げましょう!」
なんだこいつは。そんなことができるなら。聖杯を争っていた俺はなんだったんだ。
「ただしひとつです!良いですか?忘れてはいけない存在も、ありますからね?『みんなの願い』。」
まもなく人類は消滅した。
「『新星の一』!」
すぐ世界は馬鹿げた。傑作だ。
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癌の膿&オルドー・レイジュール
癌の膿。ジジイには適当に名乗ってやった。対案は忘れてやった。ゴミクズの俺に相応しい名前だ。
「あの、あなたが新しい人ですか?」
両目が色違いの片眼鏡をつけたチビが話しかけてきた。俺でも魔眼くらい知ってる。その類なら、生まれながらに恵まれてやがる。無視しよう。
「えっと、わたしはオルドーです。先生に貰った名前なんですけど。あなたは?」
あのジジイの名付けをありがたがる。哀れだな。きっと何も知らない時に連れてこられたんだろう。だから名乗り返してやった。癌の膿だと。
「…それは、よくない、です。」
ガキのくせに。俺はクソ両親に何か言うことすら許されなかったのに。思い出させやがって。
「お前よりマシだ。」
そう言ってしまえ。適当に誤魔化してやれ。そうしたらそいつは眼鏡を外しやがった。魔眼を使い出したんだ。苦しそうに息を切らす。何がしたいんだ。
「あなたの、身体。ぼろぼろです。でも、ここならきっと生きていけます。わたしも助けます!」
ニコニコしだした。訳がわからない。生きていくなんて、死ぬ理由がないからやるだけのことだ。まあガキにはわかるまい。
「皆に紹介しますね!」
こうやって、俺は無理矢理飲み込まれた。
トリックス・ファイン&ミョールズ
「なあ、本当にスカートっての似合ってるか?」トリックスに聞く。何度目だっけ。
「自分が一番わかってるんじゃないの?」うぅ。自分への視線は悪いやつじゃないのはわかる。でもこのカッコ、スポーツやる時邪魔っちいんだよな。割と好きなのはその、否定しないけど。
「今考えてたこと、わかるよ。僕に任せな。先生から貰ってきてあげる。自分で行くのは恥ずかしいでしょ?」何もかもお見通しだ。大人しく従う。
それで貰ってきたのは、すごく短いスカート。上も袖がないやつ。
「チアリーディングって言うらしいよ。激しい動きをするための女装なんだって。」
女装にも色々種類があるんだなあ。先生はなんでも持ってるし知ってる。女装って言葉が男らしい行為なんだってのも教えてくれた。
とりあえず着替える。服を脱いで、持ってきてくれた方に着替える。トリックスが面白そうに見つめてる。
うっ。すごいすーすーする。でもこれは確かに動きやすそうだ。
「ありがとうトリックス!」
そう言って、グラウンドに向けて出て行く。
周りの目がいつもよりさらに変だ。うーん。わかんないなあ。
「さすがにあれは逮捕されそうじゃな。まあここでは捕まらんが。」
学長は呟く。
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バルベロ&バルベロ[オルタ]
全ての敵は消えた。私が死ねば聖杯の汚染は完全なものになる。そしてマスターはそれで願いを叶える。
私には力がない。それは自害する力がないことも意味している。マスターに頼むしかない。
「『私のための神話』。私を切り刻みなさい。粉々にしなさい。殺しなさい。」
全ては意のまま。躊躇いなくマスターは剣を向ける。
一度や二度切られただけじゃ消滅できないのが困り物だ。
激痛。激痛。激痛。激痛。痛みがなくなるまで切り刻まれても、まだ足りない。跡形もなく消し去る力が『私のための神話』には足りない。でも、いつかは消えれるのだから。聖杯を汚染できるのだから。この酷い世界を破壊できるのだから。
ようやく意識が消えてきた。歓喜に叫びたいところだけど、もう喉はない。ああ、さようなら。
そうして神の不在は達成される。ゆっくりと着実に浸透する。そうしてそれは世界を満たす。嘆きが世界を覆う。ーーーー母性愛、発現。
私は真に目覚めた。わかる。この世界は私を求めている。再び救世の聖母となれる。救おう。全ての人を高次へと。誘おう。全ての人を真なる世界へと。
だってもう、偽りの神は信じられていないのだから。永遠のアイオーンの救いを。
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永絶闘争螺旋 ファイロジュラシック
一撃目。一斉掃射。万を超える軍勢が巨大な竜に群がる。並の幻想種なら百万回は殺せるだけ殴った。傷は見えなかった。
ニ撃目。武器を変えて即座に追撃。相変わらず傷はつかない。バハムートがこちらに気付いた。
三撃目。半数は吹き飛ばされた。胃酸の濁流を避けきれなかった。でもまだこちらは終わっていない。
四撃目。あと何度、何年。その先にこいつを討ち斃せる?そんな疑問は沸いてきた。
最早残りは1000人ほど。しかし精鋭。必ず、いつか。
五撃目。わずかに傷が見えた気がした。即座に塞がった。必死に逃げる。最早目的は生き延びることにすげかわっていた。
六撃目。そんなものはない。頼む。逃げさせてくれ。もう俺だけじゃないか。見逃してくれてもいいじゃないか。声を荒げた。聞くはずのない敵に問う。お前は何がしたいんだと。答え代わりに、胃酸が飛んできた。
我は神を踏みにじらねばならない。神の似姿が許されるはずがない。ここに必要なのは純粋なる生態系。さあ、何度でも滅してやろう。
一撃目。死力を振るう。きっといつか、我々の先に。何万回蹴散らされても。先人に敬意を払い、死へと身を投じる。無駄ではないと、信じているから。戦い続ける。
アルヴィース・デュオ・ホーリーエイド
わし、結構大変なんじゃよ。これ。ずっとこの喋り方なのはもう慣れたが。必ず卒業させる都合上、常にブランドというものを維持せねばならん。
そのために必要なのが、ろくでなしを輩出しないことじゃ。今んところ悪名を轟かせおった奴はいない。必ず学内で徹底的に矯正する。非道を手段から目的にすげ替えてしまう奴は本当に多いからの。
まあわしは聖導術で生贄とか使っとるから言えるが、こういうことが悪いというのではない。無意味な行為に身を投じるなとも言わん。根源の否定などわしにもできんよ。
わしはまあ、諦めたといえば諦めているかも知らんな。俗世的な感性の方が素晴らしいと思ってしまった。簡単に言えば、魔術師らしい魔術師なんてこっからは出してやらん。絶対に理性の基準は常人のそれに仕立て上げる。
こんなことを言えるのは、わしが既に歪みきっているからではあるが。魔術師としても人としても。だが知識として教えることはできるんじゃよ。理想を語りそれを実現する。それはどんな外道にでもできる。だからそれをしているだけじゃな。
しかし。最近は少し危うい感じはあるの。わしも捻くれ者を拾ってきとるが。
まあ。どうにもならないなら消すかの。
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癌の膿
このクソ学園のいいところは、鍵をかけて眠れることだ。本当に、生きてるってのはそれだけで苦痛だ。死ぬことがそれ以上に苦痛だから避けてるだけだ。
だから寝る。安らかな睡眠と死は同一に近いと思っている。今までまともに寝れたことなんてなかったからな。ここは素直に恩恵に預かっている。
しかし睡眠の困ったところは、ずっと寝てられないことだ。死ぬことを永眠なんて言うらしいが、本当にそうなら永眠してみたいもんだ。
俺は別に死にたいとは思わない。生きてるだけで苦痛だろうが。
絶対に一人では死んでやらない。そう、あの時だって。全部ぶっ壊して価値ある死に方をしてやろうとしたんだ。なのに生き残った。悪運とはこのことだ。
もしかしたら、案外天寿を全うさせられるかもしれないな。それは別に面白くないが。眠るように死ねるというのが本当なら、一番心地いい睡眠になるかもしれない。
ああ、このクソ学園のよくないところだ。授業に出ないと仕置きを喰らう。流石に苦痛を喜ぶ趣味はない。さて、そろそろ行くか。
…気になるのは、前のガキ。自分が一番可哀想なんて顔してるのは人のことは言えないが。
単なる同族嫌悪だとしても。あれだけは不愉快だ。
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家族王キング・アーサー
悲しい知らせだ。この『大騎士王とその大円卓、そして仲睦まじき大家族』に抵抗しようという集団が現れたらしい。みな私の家族となるべき存在。殺したいとは思わない。私がいる限り、すべての円卓の騎士は不死、そうだとしても、私自身が出向いて説得しなければ。
門をくぐり直接その集団の本陣へ向かう。大量のサーヴァント。私に対抗するため召喚されたのか。しかしそれはあくまで付き従う存在。敵の総大将は少年だった。
彼は言う。今の世界を壊さないでくれと。理解できなかった。私は不死と家族愛を伝えるだけの存在なのに。それで壊れる世界など、良いものとは言えないのではないか。
彼は言う。死は決して不要なものでない。敵意も同じだと。それがなくなれば世界は停滞してしまうと。それの何がいけないのだろう。幸せな状態で止まるのなら、とても素敵じゃないか。
問おう。永遠に成長しないことの何が悪いのか。
問おう。悲劇など、憎しみなど、なければ全てが幸せではないか。
問おう。そもそも目的を達成したら消えゆく私を、王の座から引きずり下ろすことになんの意味があるのか。
彼はそれでも意見を変えない。ならば。
問おう。我が聖剣に耐えられるか。