「おっ、あれは滝じゃないか?」
さっきのよくわからない空間から抜け出して最初に見つけたのはまっさらな砂漠にそびえたつ巨岩。そしてそこから流れる大きな滝だった。
近づくだけでも体が満たされるのを感じる。レストランのときの寒気とは違う、心地の良い涼しさが体を包み込む。滝壺から水をすくい上げてみると、予想以上の冷たさに体全体が震えた。
「ふぅ......疲れた体に染み渡るな」
「やっぱり水浴びは最高だね」パシャパシャ
水がめちゃくちゃ飛んでるんだが。
でも、考えてみればここ2,3日まともに風呂に入っていなかった。そしてこれからも、いつ風呂に入れるかなんてわからない。過酷な砂漠での旅に順応するため、ここは目の前にあるものを最大限活用することにした。
「君、そのペンダントは外さないのかい?」
ヘビが俺の首元を尻尾で指す。その目には、内部で桃色の霧が流動する不思議な石が映っていた。
「これ、俺の母親の形見なんだ」
俺には親が一人しかいない。父親は生まれてから今まで顔も見たことがないし、探そうとしたこともなかった。
ただ一度だけ、母に尋ねたことがある。
『おかあさん、どうして僕にはおとうさんがいないの?』
『おかあさん、何か悪いことしたかしら?おとうさんがいないと不安?』
母の悲しそうな眼は、当時子供だった俺に”かわいそう”と感じさせるほどの何かを持っていた。あの日の記憶は、今もその痛みとともに深く心に刻まれているそ。れ以来、俺が父親についての話を母にすることはなかった。
「なるほど、それで?そのお母さんはどうしてお亡くなりになったんだい?病気?」
「いや、それが全く思い出せないんだ」
そう、本当に全く。不思議なことに何の手掛かりも思い出せないのだ。まだ幼かったこともあり、覚えていることは家にこのペンダントが残されていたことだけだ。
「お父さん、早く会えるといいね」
「会ったこともない親なんてよくわからないよ」
滝が流れ落ちる音が聞こえた。