緑の救世主1
ピッケルが足りない。
洞窟を丸ごと使った酒場で、僕は絶望していた。
狭い道は酒豪たちで閉ざされていた。退いてもらいたいが酒が回った彼らは化石を売ってやったら通してやってもいいぞ、の一点張り。あいにく化石は持っておらず、酒飲みたちを前に成すすべがなかった。ピッケルがあれば洞窟を無理やり突破できそうだが、先程最後の1つを使い切ってしまった。ピッケルを売ってくれるトレーダーがいれば...しかし、それは叶わなかった。
ピッケルとダイナマイトが足りない。ピッケルは沢山用意した方がいいという助言をメトロストリートのヘビから聞いており、ならばと5つも用意していたのに全然足りない。辺り一面の岩。掘っても掘っても岩。とにかく岩しかない。アイテムは底を尽き、大量の岩を前に、文字通り手も足も出なかった。
回復アイテムが足りない。ヤギみたいな見た目のやつに近づいたら見たこともないような恐ろしい猛撃を放った。こんな攻撃を耐えるには大量の薬草が必要だろうが、もう3つしか残っていなかった。悪あがきも虚しく惨敗し、気を失った。ああ、僕、死んじゃうんだな。目の前に白い光の筋が広がっていき、ぼんやりとした声が聞こえてきた。「目覚めなさい...目覚めなさい、ヘビ坊よ...」どこか聞き覚えのある声だった。このまま天国行きなのかな。雲の上でフワフワ浮かんで地上の景色でも眺めるんかな。そう思った時、また声が聞こえた。「目覚めなさい。いつまで寝るつもりだ!?こんな大事な日に寝坊してるんじゃないぞ!」...寝坊?......あ、これ夢か。
やっと目が覚めた。なんか悪夢を見ていたような気がする。
今日は旅立ちの日だ。僕らヘビ商人族は成人(厳密には成蛇)した日にたった1匹で初めての貿易の旅に出るという古くからのしきたりがあるのだ。
「ヘビ坊、さっさと水をくんで来なさい。」
そして今日は僕の成蛇の日だった。貿易の旅といえど、途中で命を落とすことも珍しくない危険なものだ。緊張でよく寝るれなかった日が続いて寝不足気味だ。今日だって貿易の旅で死にそうになる夢を見ていた気がする。今回の冒険は不安しかない。
「はーい...」
そう言ってペットボトルに水を詰め込んだ。
「ごめんね。こんな大事な旅だが、1Gたりとも旅費を出せなくてな。」
うちはすごく貧乏だ。オアシスに恵まれ、国宝級のレア鉱石が2つも存在するこの地は、かつては多くの旅商人や観光客で賑わうと思われていた。うちの両親はこれに目をつけ、一攫千金を夢見てここに移住した。しかし、現実は甘くはなかった。なんと鉱石が2つとも呪われていたのだ。呪いの影響で治安は悪く、無駄にお金を無くすようになって総資産も減っていった。いつしか誰も近寄らず、引越し費用すら持っていないうちだけがここに残って住んでいた。
「しょうがないよ。うちは貧乏だから。」
「地下には危険がいっぱいだ。気をつけなさいね。」
「ありがとう。行ってくるね。」
僕は水と地図を握りしめて、ラクダに飛び乗った。見送る両親はどんどん小さくなって、やがて緑の点となっって消えた。
冒険2日目。とはいいつつも事実上の冒険初日である。クレーター砂漠に到着した。ここにはたくさんの資材や財宝が埋まっていると有名な場所だ。あいにく、スコップは持っていなかったが、運のいいことに誰かがスコップを置きっぱなしにしていたのでそれを使わせていただいた。まあ、僕が使ったせいで壊れてしまったが、内緒にしておこう。スコップでクレーターを掘ってみると、なんと地下水を掘り当てた。もう1カ所掘ってみると今度は石油が出てきた。これはなかなか嬉しい。燃料で暖をとり、もう一仕事しよう(爬虫類だから体温を暖めておかないと仕事ができないのだ)。スコップがないのでしっぽで辛抱強く掘り進めると、わずかではあるが埋蔵金と温泉も掘ることができた。掘り当てた埋葬金で早速近くに居た商人ヘビからバールを購入した。今日は初日にしては十分な収穫だったのではないだろうか。喜びを胸に、ラクダに乗って次の街を目指した。
冒険3日目。たどり着いたのは広大な砂漠にぽつんと立つコンビニだった。コンビニなら人が集まり、情報収集に適しているほか、当然取り引きも行いやすい。なかなかいい場所に当たったようだ。とりあえずコンビニで情報収集すべく、新聞を買おう。
「おじさん、新聞を1部くれ。」
「はいよ。580Gだよ。」
しまった。昨日バールを買ったせいでお金が足りない。どうしたものか、と思った矢先、レジが目に入った。あそこにはお金がたんまりとあるはず。よし。盗もう。
「おじさん、その四角いのはなんだい?」
「ああ、これは電子レンジといってだな。。。」
今だ。店主が目をそらした一瞬の隙に僕はバールでレジをこじ開け、1000G紙幣を3枚ほど盗んだ。
「料理の腕がなくても絶品が作れる優れものだよ。」
「そうなんだ。はい、580Gだよ。」
何事もなかったかのように代金を支払い、新聞を受け取る。なくしたらいけないので、近くに置いてあったコピー機で新聞をコピーした後、早速新聞に目を通した。トップニュースは、地下で発見されたピラミッドと、そこに描かれていた壁画についてだった。壁画には文字も書かれていたそうだが、古代の文字で書かれており、何が書かれているかはまだわからないらしい。壁画の写真が新聞に載っており、それをみて驚いた。なんと、自分そっくりのヘビの絵が大きく描かれていたのだ。古代人は人間型だったともロボット型だったとも聞くが、ヘビ型であったという説は聞いたことがない。しかし、なぜヘビが描かれていたのだろう。気になって仕方なかった。いつか行ってみたい。
新聞を読み終えた僕は、適当に観光客に油を、もとい水を売り、適当にピッケルやたいまつなど、地下の冒険に役立ちそうなアイテムを購入した。そのあとはカエルを数匹捕らえ、店主自慢の電子レンジをこっそりとお借りして絶品パスタを作った。
「おい!うちのレジを壊したやつは誰だぁ!!」
しまった。レジからお金を盗んだのがばれた。すぐにラクダに乗り込んで、逃げるように次の街へ向かった。まあ、実際逃げているのだが。
今日もそれなりに収穫が良かった。今のところ罪を1つ犯したこと以外は冒険は順調だ。
つづく。(次回投稿未定)
緑の救世主2
冒険4日目。
昨日までの平和な雰囲気からガラリと変わり、砂漠の無法地帯とも呼べるような場所に来てしまった。ごろつきもうろついているし、それを追っているのか警察官も居る。気をつけなければ。
とりあえず酒場に顔を出すことにした。
「はーい、ヘビの坊や。何を飲む。」
「枝豆をひとつ。」
「......うちの裏メニューを知っているとは驚いたよ。ほれ、枝豆、680Gだよ。」
「どうも」
まわりの客はすっかり酒が回っているようだ。ちょうどいい。少しばかりお酒をいただくこととしよう。
一旦酒場を出て、裏に回ってみるとごろつきに絡まれた。
「おいそこのヘビ野郎。痛い目に遭いたくなければ金をよこしな。」
バールや包丁を持ってこちらに近づいてくる。でもこいつらは金に困っているだけに違いない。
「......借金で困っているんだろう?助けてやるよ。」
「なっ!?...」
「図星か。僕が皆の借金を肩代わりしてやろう。だからその武器を置いて欲しい。」
そういうとごろつきたちは涙を流し、お礼を述べながら持っていた武器やバールを僕に手渡してくれた。借金は抱えてしまったが、人助けはいいものだ。
さて、このまま今日の貿易を終えるには少し物足りない。というわけで、人が集まっている酒場に戻ることにした。戻ったときには、酒場のマスターはどこかに行ってしまった。ちょうどいい。置いてあったお酒と自販機で売っていたものをここで転売してしまおう。
「おいしいビールが冷えてるよ。」
「おう、緑のマスター、あるだけ全部売ってくれ。」
「まいど!」
結構な金になった。やったぜ。臨時収入を前にウハウハしていると、背後から鋭い声がかかった。
「そこの緑色の君。」
しまった。警察に見つかった。
「げげっ!」
「ブラックリストに載っているヘビだな。逮捕だ!」
冒険の序盤にして捕まるわけにはいかない。しょうがない。奥の手を使おう。
「ちょっとおまわりさん、これ欲しくない?」
お酒を転売して手に入れた3000Gを見せびらかした。
「な、何のまねだ!?」
「今見逃してくれればそのバールを高値で買い取っちゃうよ~。」
「......わかった。今回だけは大目に見てやる。」
うまくいった。下っ端の警察は激務でパワハラだらけで安月給だから賄賂が簡単に通ると聞いてはいたが本当だった。定価より少し高い程度の値段で上級のバールを入手できた。これがあれば仮に一回くらい捕まっても何とかなりそうだ。
警察が去って一件落着。......よく考えてみると、店主はいない、警察も居ない、客は酒におぼれている......。今ならレジを開け放題じゃないか!
というわけでバールでレジを堂々とこじ開け、賄賂に使った分だけ金を盗んだ。
今日もだいぶ潤った。......順調に罪と借金を重ねてはいるがそれ以上に稼いでいるので問題ないだろう。さて次の街を目指してラクダに乗ろう。そう思ったとき、ふと下り階段に目が移った。こんなところに階段が?今は地上だから、地下に続くのだろう。地下......。もしかしたら新聞で見た壁画にもたどり着けるかもしれない!地下は凶悪なモンスターが住んでいることもあると聞いているが、探索アイテムも回復アイテムもそろっている今なら突破できそうだ。少し怖いが、勇気を出して地下への階段を踏んだ。
つづく
緑の救世主3
冒険5日目。
貿易の旅に出てから、初めてのダンジョンだ。ダンジョンではモンスターが多数生息していると聞いていたが、ここに居るのはミミズくらい。まだやさしい方だろう。ピラミッドでなかったのは残念だが、お目当てのものがそう簡単に見つかるわけはないだろう。今日たどり着いたダンジョンでは、手前に鉄格子があり、奥には財宝が眠っている。なるほど、ここは財宝のダンジョンという訳か。ならば財宝はもらっていこう。昨日警察から賄賂の対価として受け取ったバールで鉄格子を破壊し、中の金品財宝をがっさりと持ち去った。初めてのダンジョン攻略にしてはうまくいった、よしよし。そう思ったとき、背後から声がした。
「緑色の君、もしかしてトレーダーかな?」
振り返ると、奇抜な格好の人間がいた。ダンジョン内で敵ではない人に会うとは珍しい。
「......はい、そうですが。どちら様ですか?」
「私はティムと申します。時空商人をしています。」
「商人?じゃあ売り買いでもするの?」
「いえ、私はあなたの時間を対価に商品を販売しているのです。」
「時間を対価に?どういうことだい?」
「あなたの回りの時間を1日分だけ止めて、その間の生命力エネルギーをいただきます。その対価として珍しい道具を差し上げます。」
そういうと緑色のごついドリルを取り出した。なるほど、これならばダンジョン攻略でいざというときに活躍してくれるかもしれない。
「じゃあ、お願いしてみるよ。」
そういうとティムはなにやら不思議な儀式を始め、気がついたら気を失っていた。
冒険6日目。
気がついたらダンジョン内で気絶していた。どうやら無事に「時間」の支払いができたようだ。約束通り、時空商人ティムから超電磁ドリルを受け取った。
「ありがとうございます。またどこかでお目にかかりましょう。」
そういうとティムは立ち去った。
さて、このダンジョンの宝も収穫できたことだし、ピラミッドの壁画を目指して次に進むとしよう。
途中ミミズやごろつきに絡まれたが、お金や借金の肩代わりでうまく対応し、さらなる地下へと続く階段を進んでいった。
続いては、ロボットトレーダーがいる遺跡にたどり着いた。古代人なのか、壁画に関する情報が得られないか訪ねてみたが、トレードに関係すること以外の問いかけには全く応じてくれなかった。仕方なく、適当に予備パーツ等を購入して、その場を後にした。
その後、重力が弱いダンジョンやなぜかサッカーボールが大量に破棄されているダンジョンなどを超えたが、ピラミッドや壁画に関する情報は得られなかった。
冒険を続けるうち、新聞で見た壁画が、その前からどこかで見たことがあったような気がするようになってきた。果たしていつどこで見たのか見当がつかない。そもそもピラミッドに行ったことすら無いはずなのだ。気のせいだと思うのだが、気のせいで済ませてはいけないくらいには強いデジャブの感覚に襲われていた。しかもその壁画には何か大事な意味があったような気すらしてくるのだ。新聞で見かけた、自分そっくりのヘビの絵が描かれた壁画。それが気になって、ここ数日は夜しか眠れなかった。まあ、ダンジョン内だからあまり関係ないけど。
そして翌日、遂にピラミッドにたどり着いた!
つづく