3rd STAGE―
桜と共に幾多の花が咲く季節―
スーツを着た4回生を私服の在校生がそれぞれ囲む輪がキャンパス内に出来上がる中で、大坂は中宮葛と言葉を交わしていた。
葛は普段のラフな格好ではなく、化粧をしっかりと行いスーツを着用しているので大坂からしてみれば些か大人びて見える。
「え?道場継ぐんですか?」
「近いうちにね…仕事は決まっているけどそんなに忙しい業界じゃないから時間もあるし」
「じゃあ、まだここに残るんですね…」
葛の実家は古い合気道道場である、彼女曰く卒標後は就職をするとはいえその引継ぎと並行するとの事らしい。
「私ね、思うんだ。誰にも何にでも、収まるべき場所があって…でもそれを果たすにはやっぱり踏み出さなきゃいけないんだよ、大坂君…」
「なんか、矛盾してるような気がするんですけど…」
「いつか、わかるよ―」
これが、大坂浩志が中宮葛と交わした最後の会話である。
―JWKAライト級タイトルマッチ
2年前まで姿勢鈴は女子キック界で知る人ぞ知る存在だった。
10代で国内タイトルを奪取した後、ヨーロッパへと転戦するが彼女はそのステージでも一線級の実力を示した。
長い脚から繰り出される閃光のようなキックは高いKO率を叩きだし、ルックスも相まって女子選手としてはそれなりの人気を持っていた。
欧州王者のタイトルも獲得し、通算戦績16戦13勝(9KO)2敗1分け。
そんな姿勢の転機は日本国内のメジャー化を狙った新団体旗揚げである。
この時に彼女は欧州王者のタイトルを引っ提げて日本へ凱旋する事となる、当然メーンイベンターとしてのオファーである。
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