逆井はそのまま振り返ることはなかった、長身が徐々に群衆の中に埋もれていく。
そして一人の離脱と共に集団はさらにざわめき立つ。
彼らも程度はどうあれMMDDRerであり、その研鑽が大人の都合で踊らされていたという認識になりつつあった―
「気に入らない奴は…さっさと出ていけ!」
大坂浩志が一喝した、先程逆井を制止した時よりも鋭い語気で。
動揺するDDRerを睨みつけたまま、続ける。
「…大人が作ったゲームに金払ってんだよ俺たちは、もうその時点で向こうの都合だろ。そこから既に大人の金儲けに参加してんじゃないのか?」
「でもMMDDRは…あっちが流行らそうとしたもので…」
「知らねーよ、どうしてほしいんだよめんどくせえ。出たいなら残ればいいだけだから騒ぐんじゃねえよ!なあ姿勢さん、アンタどうなんだ?」
姿勢は白の上下スーツに長い髪を後ろでまとめたいつもの出で立ちだった。
腰に手を当てた立ち姿のまま様子を眺めていた彼女であったが、どこか苛立った様子も伺える大坂に話を振られて集団の中に歩み寄っていく。
集団の中心に立つと一本に纏められた髪を靡かせながら彼女がMMDDRer達へ振り返る、姿勢が大坂の隣に並び立った。
「勿論私も、今降りるわけにはいかない」
口数が少なくココイチバンでも人付き合いが知られていない姿勢鈴だが、彼女にも過去はある。
また、彼女自身もそれを振り返っていた。
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