(壱の続き)
「そうだ、さっきおばあちゃんがお辞儀しながらこの店を出るのを見たわ。あんたら、また変なことに首突っ込もうとしてんじゃないでしょうね?」
「ご想像にお任せしますよ」
「────ったく。怪我はしないでよ。いちいちあんたらの治療とか看病すんの、面倒なんだから」
トゲのある事を言っていても、彼女の目はとても優しげで、本気でふたりを心配している事が幹斗にも見て取れた。そこまで言うと、彼女はすぐに前に向き直り、扉の奥に消えた。かつかつかつ、というヒールの音がフェードアウトする。店は、幹斗と白羽のふたりのみとなる。
「すまんな。騒がしくて」
「いやいや、明るいのはいいことだよ」
幹斗は白羽にそう返すと立ち上がり、空になったコーヒーカップと皿を持ってカウンターに歩き、白羽に返す。
「もっと話してたいのは山々なんだが、そろそろ集合の時間なんだ」
左手首に巻いた腕時計の文字盤を見ながら、ペアを組んでいる組織犯罪対策部の刑事の言った、休憩後の集合時間を思い出す。あと15分ほどだった。
「そうか。がんばってな。また来てくれよ」
「ああ、勿論だ」
白羽は幹斗から受け取った食器を洗いにかかりながら、幹斗は椅子にかけたジャケットを腕にかけて、出入り口に向かいながら、会話を交わした。言葉数は少なかったが、ふたりにはこれで十分だった。また会える。また話せる。そのことを思えば、余計な言葉は不要だった。
外に出て、背後で扉の閉まる音を聞き、幹斗は空を見上げる。
鮮やかな色を纏った雲が浮かんでいた。
高い空に輝く太陽は、やけに柔らかな光で幹斗を包んだ。
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凍結されています。