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エマ 2018/02/04 (日) 17:11:00

そいつは、手にしたワイングラスを、ぐい、と傾けた。当然、零れる。赤色が滴る。ぽとぽとと、鼻血のように、自分の白い服に落ちて、染み込む。
「やめて」
声を出していた。声が出るとは、思わなかった。なんでかは、分からないが。もう一度、やめて。と、小さく呟く。
白が汚されてしまっては、勿体無い。もう一度、完璧な白に戻ることはできない。
そいつは、傾けたワイングラスを、自分に差し出した。飲め、という意味であろう。喋れないのだろうか。
飲みたくない。だが、こわい。今にもグラスは割れそうなのだ。
そいつは、怒っている。ワイングラスを持つ手に、力を込めている。ガチャガチャと、音を立て、震えている。そいつの白い手袋が、跳ねたワインで、つぶつぶ染まる。綺麗じゃない。
おそるおそる、手を伸ばした。ワイングラスを受け取る。二口分くらいしか残っていなかった。
これを渡せた事に安心したのか、そいつは、不気味なほどに整った姿勢で、自分を見つめる。怒っていた時も恐怖を感じたが、こちらも怖い。早く飲まなければ。
両手で持ち、ぐい、と傾ける。息を止める。成る可く味わわないように、流し込むように。
グラスは空になった。

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