視界が地面と平行になる。
地面は、土ではなく、草が生えていた。短いが、湿った草。名前を知らないから、「雑草」と呼んだら、植物学者は怒るだろう。
墓は、自分の足元にある。だがそれ以外にも所々、至る所に地面から十字架が生えている。
石造りの十字架には、苔が生えている。湿っているから。そういえば辺りは霧がかっているようで、奥(自分はそれが、何十メートル先なのかは、距離に言い表すことはできなかった。)の、木の向こうは、真っ白でとろとろとした灰色に溶けて、見えぬ。
白黒の目の前に、色が映り込む。右に近い。眼球は自然とそちらに注意が向く。目は湿っている。
赤だ。赤色だ。バラの色。社会主義。共産主義。発展途上の自分の国ではよく、目にする色。
赤色が浮いている。いや、浮いてるのではなくて、誰かが持っている。それは、こちらに気が付いたように、或いは、初めから知っていて、自分が気が付くのを待ち望みしていたかのように、ゆっくりと近付いて来る。
ニタニタと笑った、ように見えた。正確には、そいつ(自分は何かとても厭なものを感じたので、そう呼ぶことにした。)の顔は骨で、骨のようで、角が生えている。牛の骨格だろうか。気持ちが悪いと思った。黒のタキシードを身にまとっている。同じく黒の蝶ネクタイは、歩いても揺れぬ。
手にしているのは、ワイングラスだった。赤い中身は、ワインであろう。飲んだことはあるが、子供の自分には、美味しさが理解出来なかった。
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