家はただの喋る家ではありません
この家は魔法の家とも呼べる物で、メタボリズム建築の完成形です
この家屋内では老朽化や破損で夥しい規模の「逸脱」が発生した部屋が深夜の2時に消失し、消えた部屋と寸分違わぬ、しかし新築同然となった部屋が生まれます
各部屋にはプリセットが設定されており、新しく誕生する部屋は必ずプリセット通りのものが発生します
従って、住人が持ち込んだ物──住人も含まれる──は部屋が消失する際はそのまま消え去り、再生した部屋の中には再現されません
あなたが魔術師であれば初歩の結界魔術などを応用し、部屋の破損を感知できる機能を整備し、軽度の引っ越し作業をライフスタイルに取り入れることをおすすめしておきます
「逸脱」は部屋として立方体状に空間を区切る六つの面──壁、天井、床──が破れ、他の空間と繋がることを条件に発生します(つまり、外壁の破損を除いては必ず二つ以上の部屋が同時に入れ替わる)
ただし、扉と窓の開閉は「逸脱」の条件を満たさないものとします
部屋の再構成が齎すものは決して不便のみではありません
いくつかの部屋には清潔な水が収められたタンク、医薬品、大の大人が一ヶ月は食いつなげる程度の保存食料、燃料が満タンの発電装置、基本的な魔術触媒など生きていくために必要な物資が備蓄されていることがあります
これらの備蓄は部屋のプリセットに含まれ、「逸脱」後に再構成されるものです
一見永久機関のようですが実情は違うということはあなたが魔術師であれば薄々読み取れるでしょう
しかし、永久機関もどきの仕組みや魔術式を読み取ることはできません
「タブー」に触れるためです
恐らく高位の魔術師が遺した作品であろうこの家には簡素な「タブー」が存在しています(「タブー」をどうやって知るのか? 家は喋るものですよ?)
住人が守るべき「タブー」はたった3つ
一つは「家」に組み込まれた魔術式を探らないこと
一つは「家」にあるものを持ち出さないこと
そして最も大事な一つが「不変の部屋」に入らないこと
「タブー」を破ると「防犯トラップ」が発動します
屋内で誰かが禁忌を犯そうとした場合、家は警告を発し、警告が無視された段階でその住人のいる部屋を消滅させます
この状態に移行した場合、窓、扉には空間異常が生じて現在の部屋にループする構造になるため逃げることは適いません
消滅までにはタイムラグが一時間ほど設定されています
二次起動までに「家」を説得するか、「家」が情状酌量の余地があると判断すれば閉じ込められた人物は解放されますが、家は相当怒りっぽい性格をしているので中々耳を傾けてくれません
あなたがこの「家」に長く住んでいれば知り合いのよしみで話を聞いてくれるでしょうが、不運な盗人の口がどんなに上手かろうと「家」は聞く耳を持たずに消し去ることでしょう
手癖の悪い友人を招く際にはご注意ください
他にも「家」には秘密がありますが……それは住人であるあなたがどんな人物かが明かされた後に語るべきことでしょう
それでは、快適なハウスライフを!
P.S. 家のパーソナル・ネームは「ハウスマン」です
>> 25
初代のころからこの家に住んでたのかもしれない。
記憶を引き継ぎできるから当主はこの家とそれなりに良い付き合いができるかも。