そんなモザイク都市梅田の喧騒の中、一人の少女が歩む。
「いやぁ、久々に甘い物食べると若返った気分だわー。おねえさん満腹」
「グァハハハハハ! 若返った気分と言うがそう思う時点で歳を隠せてないなぁマスターよぉ!」
小学校半ば頃の身長の少女の隣を、追従するように大男が歩みながら呵々大笑する。
少女の名はエメリア・フィーネ・グランツェール。俗に『"嵐を呼ぶ女(ミス・アンタッチャブル)"』と呼ばれる、少し魔術に精通した者ならば名を知るほどに有名な魔術師。
あくまで高名ではなく、有名。その二つ名が示す通り、彼女が往く先々には必ずと言っていいほどに、嵐が吹き荒れると名高い女だ。
……こう見えて年寄り臭い言動をするが、命が惜しければ彼女に年齢の話題は避けることが良いだろう。
そしてその隣を歩むは、エメリアのサーヴァントである"剛健"のアーチャー。
名をビーシュマと言い、インド神話最大の叙事詩マハーバーラタにて、最強と言われる男である。
彼らは、いや正確に言えばエメリアは、ある男を探し出すために世界中を渡り歩いている。
生まれのロンドンからはるばる彼方の極東・日本まで、"ソレ"が存在するというか細い糸のような可能性を辿って、ここまで来た。
どんな噂でも、どんな小さな言の葉でも、"ソレ"がいると思われるならば即座に駆け付ける。
だが、彼女のその旅路が安寧なものであったか、と問われればその答えはNoとなる。
何故なら彼女は『"嵐を呼ぶ女(ミス・アンタッチャブル)"』。安寧な旅など、彼女の運命が許すはずがない。
「んぇぇ!? 上空に突然人が!? ダイナミックバンジー!?」
「戯けェ! こりゃ魔術か宝具だろうよ! マスター! "お前が探してる連中"の仲間かァ!?」
「んーわかんない! とりあえずキャッチして助けよ! 全速力!」
「おし来たァ!」
突如として空中に出現した人影を、けがをさせまいと駆け寄る大男と、その肩に乗った少女。
2人は人ごみをかき分けて駆け抜ける。自由落下する人影を、救助することは出来るのか────