刀根音子は、大工の棟梁である。梅田が「梅田」となる前から大阪の地に根付いている、日本最古の企業“金剛組”の技術的後継者、“奈落組”を引っ張る頭である。
大阪三都に存在するおよそ全ての古式建造物、或いは魔術的建造物の修繕維持を担うが故、カレンシリーズや寺社仏閣の管理者との打ち合わせをするか、現地に赴き現場の指揮を取るか、その2つに1つが彼女の日常であり、今日は前者に取り組んでいた。
「ったく。魔術師がなんぼ偉いか知らんけど、あたしらは便利な小間使いとちゃうで……」
「梅田」の主要なエリアを接続する高速連絡鉄道線。人々の雑踏と共に、スーツ姿で其処から降りる。現場で働く方が性に合っている彼女にとって、自分達何でもない一般人を見下す魔術師という人種との対話は、気難しい一般人を相手にするより遥かに面倒かつ危険な仕事であった。
ろくに体を動かしている訳でもないのに、そう錯誤する程の疲労感が抜けない。自分の肩を揉みながら、脳裏で未だ無機質に此方を睨める依頼主を追い出す。もしも自身のサーヴァントたるあの将軍様を連れていなければ、どうなっていたことか。叶うならば、ああいう手合いからの仕事は断りたいところだが……。
ぼつぼつと、ささやかな呪いの言葉すら吐きながら、彼女は駅前の通りを歩いていた。
「……ん?」
ふと、妙な音を聞く。モノが突然現れたような。
下を見れば、奇妙な影。上には構造物すらないはずなのに。
そして、見上げてみれば、
「――――何でやねん!??」
思わず突っ込む。其処にいるのは、テレビでよく見る顔。梅田の都市軍所属の、ネコといつも一緒の男。
何故だか、その男が上空に。訳のわからないまま叫び、そして硬直する。
あ、と思う間もなく、その影は落ちてきた。
「当たるッ――――!?」
よりにもよって、将軍様は先に帰っている。このままでは、自分が潰されてしまう――――。