尾名畦/E・シュレーディンガー
2020/04/27 (月) 20:32:26
モザイク市、梅田。
旧大阪に存在する二大モザイク市の一つであり、多くの他都市と接続する交通の要衝。
今まさに繁栄を謳歌するこの街を、茶のコートをまとった男が一人歩いていた。
「ここはいつ来ても賑やかだね、シュレーディンガー」
彼の肩に乗る、白衣を着て、眼鏡をかけた猫を優しく撫でながら声をかける。
猫はその呼びかけに対し、人語をもって返答した。
『私は喧騒は好きでは無い。用事が済んだら早く帰るぞ』
「偶には観光も良いものだよ。記憶は文面の情報には限らないさ」
『もう良いだろ。研究に戻りたい…』
「そうだね。そこまで言うなら、そろそろ帰ろうか。”漏斗”をよろしく」
『…帰る時は私頼りか。オマエこそ偶には交通機関で移動しろ、まったく…』
そう言いつつも、シュレーディンガーと呼ばれた猫は前方の何も無い空間を凝視する。
瞬間、格子状の”漏斗”のような門が開き、彼らを迎え入れる。
「じゃ、行こうか」
『時間等曲率漏斗』を通り量子状態へと変換された彼等は、漏斗直線上で自在に実体化し、結果的な瞬間移動を行う事ができる。
普段通りの行動により、元の居場所に戻るはずだった、が…
「!」
まれに、慣れた彼等でもこのような”事故”を起こす。
実体化箇所を誤り、想定と異なる場所に移動してしまう…
今回のその場所は、経験上”悪い”座標であった。
「これは…!」
『上空か…マズいな』
地上5m程度。このまま落ちても死にはしないが、それなりに怪我は負うだろう。何より問題なのは、自由落下地点に人がいないかどうか…
漏斗の再展開の時間はない。彼等は重力加速度を全身をもって感じながら、それを祈るしかなかった。
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