────────梅田迷宮地下88階層
残響時間、トワイライトと名乗る魔術師の工房は年越しを迎える外界とは売って変わって静寂そのものだった。
聞こえるのは工房の主トワイライトが机に向かい羊皮紙に何かを書き込む為、ペンを走らせる音だけだ。
そんな中、僅かに手先がブレ、カチリと、僅かな振動で機材が動いた音に残響時間、トワイライトはふと顔を上げた。
「ああ…もう年末、どころか年が変わってるじゃない」
ふと机の片隅にあったデジタル時計を見るとその日付は1月1日を指し示していた。
やれやれと肩を竦めて、何かを書いていた手を休めると腕を上げ、伸びをする。
500年も生きてると時間感覚が狂ってくる、時間操作の魔術なんて使っていれば尚更だ。
元々トワイライト自身が新年に然程の重要性を見出だしていないという事もあるだろうが。
「まぁ、それでもハッピーニューイヤー…ってとこかしら?」
椅子から立ち、机を離れたトワイライトはどこからか赤ワインを取り出すとグラスに注いだ。
誰にでもなく一人呟くとグラスに口を付けゆっくりと中身を味わう。
「来年こそは「 」にたどり着きたいわねぇ……確か毎年言ってるけど」
ワインを飲み干したトワイライトはグラスを適当に投げ捨てると、新年のことなど頭から消し去り再び羊皮紙へと相対した。
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