遠くから鐘の声が聞こえる。神戸にも新年を祝う風情はまだ残っていたらしい。しかしクロニクは、いや、紋章院だけは年明けの浮かれ気分の外で白けたような顔をする。復興派に他愛のない喜びを祝う余裕など存在しない。一刻も早く次の依頼を達成しなければ。…………そう思っていたのに。
「なぜ……! 私が……! こんなことを……!」
新年早々に金時芋をひたすらマッシュしていたクロニクがいた。次から次へとボゥルに足されていく芋はまるで悪い夢でも見ているかのようだ。
その隣でマッシュした芋に果汁と切った栗を混ぜていたアンリエッタが眠そうな目をクロニクに向ける。
「仕方ないじゃん。おせち料理が完成してなかったんだから。2時までには寝れるように頑張ろ、伯母さん」
「おせち料理を作る意味!」
クロニクの手元で一層力強く金時芋が潰れる。
アンリエッタは今の一撃で良い塩梅となったボールをクロニクの手から抜き取ると新たな芋入りボゥルを置く。
グシャリと芋が潰れた。
「それも栗きんとんばかり! こんなに要らないでしょう栗きんとん!」
「私が色々迷惑かけてるから藤咲の人の機嫌取りしようって提案したの伯母さんだし。甘いものはウケがいいって言ったのも伯母さん」
「一個も……! 覚えが……! あり……! ません……!」
ガスガスとクロニクが芋を殴る。
途端にマッシュポテトがボゥルの中で整地されていった。アンリエッタは目を丸くする。
「おー。ポテト潰すの上手いね伯母さん」
「紋章官の私にこの程度の単純作業が務まらずにどうしますか!」
「母さんには無理かも。母さんは伯母さんみたいなゴリラパワー持ってないから」
「終いにはゴリラパワーで張っ倒しますよ!?」
そんなこんなで。
年は明けてもいつもと変わらず夜は更けていく。