ロスタムはただ広場に泰然自若と立ち、これより刃を交える相手ふたりを見据えた。
>> 3
ひとりは清潔とは言えぬ甲冑に身を包んだ、小柄な男であった。
ロスタムに比せばその背丈から頑健さにいたるまで、非常な差が存在していることは誰の目にも明らかだ。
だがこの戦いにおいて、体格の差などさしたる問題にはならない。それは誰もが、そして何より、当のロスタム自身がよく理解している。
眼前に立つこの男、あるいは彼もまた、歴史に名を残せし"英霊"の一に他ならない。
いかなる人の身たる小さな体躯の中に在っても、そのうちには大力を宿す。それこそが人類、それこそが英雄。
だからこそロスタムは────眼前の男を、背丈をもって蔑するような蒙昧たる真似はしない。ただ満足げな笑みと共に、眼前の男を見据えていたが─────
「あんた─────何をしてる?!」
その表情が一瞬、酒を頭から被り始めた男の奇行を見、驚愕へと変貌した。
これより戦いを始めようというときに、酒を上から被る人間など─────それはおよそ、ロスタムの生きたあまりに長い人生のうちでも、ありえざるものに他ならなかった。
だが、だからこそ、ロスタムの表情はすぐに再び、笑みへと変わる。
「──────────面白え!!こんな奴と戦うなんざ初めてだ!!世界にゃやはり、とんでもねえ奴がいるもんだ!!」
「その名覚えたぞ、アレクサンドル・スヴォーロフ!さあ、始めようじゃねえか───────────────────」
────────────────────その時、すぐ近くに迫りくる、余りにもおぞましい魔力に気づいた。
>> 4
「────────────────────ほう」
今度ロスタムがその暗い魔力の波濤に対して見せたのは、一転して険しいものであった。
だが、先のような驚愕はそこにはなく。常人ならば身がすくむような凄まじい悪しき魔力の奔流を前になお、物怖じすることなく、ロスタムはそちらへ向き直る。
槌矛を肩に担ぎ、きっと睨みつけた。
「闘いに私情は無用。──────────だがな。俺としても、お前みたいなのを見ると血がさわぐ」
「こいつは、俺に課せられた使命みたいなもんなのかもな。……ああ、分かってる。何でもありなんだ、こういうのも居るって事はな─────────」
ロスタムが身構える。そこに在るのは明らかに──────────敵意。
「俺は善をなすため生きてきた。お前は、おそらく──────────”その逆”だろう?」
「魔性、
瞬間。ロスタムの獅子のごとき巨躯が、まっすぐに、かの恐るべき魔物へと発射されていった。
「俺も、やるしかねえだろうよ!!」
牛頭の槌矛をもって、その身に一撃を与えようと攻撃を繰り出した。スキル『魔性殺し』が働けば、ただでは済まないだろうが──────────