⑧
「そ、そりゃどうも。そう言ってくれるなら俺も作った甲斐があったよ」
つい一瞬言葉がつっかえてしまった。横から痛いほど突き刺さる視線。ちらりと伺うとセイバーがまた半目で俺を睨んでいた。
「………テンカ?」
「な、なんでもない!素直に料理を褒められてちょっと嬉しかっただけだ!」
咳払いしてそそくさと俺は皿を片付け始めた。
と、皿3枚とフライパンの油汚れを落として食器の水切り棚に置いた頃、キャスターから「典河~」とお呼びがかかる。
「なんだよキャスター。まだ帰らないのか?」
「いいから来なって。はい、ここ座って」
呼ばれるままにリビングへ行くとテレビの前のソファの真ん中に座ることを促された。
分からないままに腰掛ける。すると。
「よしよし。じゃ私はここね。はい動かなーい。席を立たなーい」
「なっ!?」
断っておくが最後の素っ頓狂な声は俺ではない。顛末を見ていたセイバーのものだ。
おもむろにキャスターは俺の横に座り、しかもその肩と肩の距離はぴったりゼロ距離だった。
いつものチェシャ猫の微笑みで俺の肩にやや体重を預けながらキャスターはテレビのリモコンを弄って番組を探していた。
間違いなくそんなことをされてぎくしゃくとする俺をからかっている。いい加減そのくらい分かってきます。
「うーん。やっぱり顔がいい男を侍らせてだらだらする午後っていうのはいいもんだね。典河は本当に可愛い顔してるからね~」
「可愛い可愛いって………男としては複雑な気持ちになるんだけど………。………?」
なんて言っていたらキャスターのいない方の隣に誰かが座る気配。誰かと言われても他にはひとりしかいないのだが。
「………………。なにか?テンカ」
「………いえなんでも」
横を見るとセイバーが膨れ面でキャスターと同じようにゼロ距離まで詰め寄っていた。察するまでもなく拗ねていた。
ことんと首を傾げて俺の肩に頭を乗せさえするものだからセイバーの体温みたいなものを直接感じてしまって尚更緊張してしまう。
4人掛けのソファのはずなのに妙に狭くて窮屈だ。美女二人に挟まれているというのに俺は冷や汗が頬を伝うのを錯覚するのだった。
―――なお、キャスターがわざと選んだであろうちょっとエロティックな雰囲気の映画は後半からアクションシーンが抜群の盛り上がりを見せて3人で大いに盛り上がったことを追記しておく。