⑥
「………なに話してんだろ」
後ろで何やら姦しいやり取りが行われているのをひとまず聞かなかったことにする。
フライパンへ分量を調節しながら白ワインを振りかけた。途端にざあ、と激しい音を立てて芳香が立ち昇る。
直前に投入していた獅子唐と舞茸にそれを絡ませながらアルコールが飛ぶまでフライパンを軽く揺すって丁寧に炒めた。
あんまり熱を通しすぎても食感が失われてしまうので程々に留めておく。その気になれば生でも食べられるものだし。
だいたい具が調理し終わったと判断出来たタイミングでちょうどよくタイマーが鳴った。
鍋の火を止めて少量の茹で汁をフライパンへ注いだ。いわゆる乳化というやつである。
プロの料理人というわけではないのでなんとなくそれっぽい粘性を帯びれば良しとする。きっとこんなものだろう。
あとは少し硬めに茹で上がった麺を移して具材とソースを絡めれば………。
試しにソースを纏って艷やかな光沢を放つ麺を1本つまみ上げて口にしてみた。丁度いい茹で加減。なかなかうまくいったんじゃないだろうか。
「ま、こんなものかな」
塩と胡椒を軽く足しながら俺は小さく呟いた。満足してもらえればいいんだけれど。
「セイバー、キャスター。お昼出来たよ。席についてくれ」
振り向かずに呼びかけながら皿を3枚並べてフライパンの中身を盛り付けていく。
トングを使って捻じりながら盛る。なんでもパスタの盛り付けは立体感を出すのがコツなんだとか。
別に誰に習ったわけではなく以前インターネットで聞きかじった知識による見様見真似なのであまり大きな事は言えない。
目分量で三等分し、俺は3枚の皿を食卓へと運んでいった。
………セイバーがさりげなく、しかし有無を言わさない動きで俺の隣に腰掛ける。何故だろうという疑問はさておいてふたりに説明した。
「………というわけで、今日の昼食はキャスターから貰った獅子唐を使ったペペロンチーノです。召し上がれ」
目の前に置かれたパスタの山を前にして、セイバーもキャスターも同じように「ほお」と軽く目を丸くしたのに内心くすりと笑ってしまった。
普段は牽制しあっているふたりだけれどこういうところでは息が合うみたいだ。
簡単な料理ではあるが自分でも悪くない出来だと思う。獅子唐の生き生きとした緑が見た目にも鮮やかだ。
いただきます、と手を合わせて早速フォークを突き刺したセイバーの目の前の席で、キャスターがしげしげと料理を眺めていた。