「」んかくん
2020/06/22 (月) 01:59:24
⑤
「………本当に突然どうしたのです、キャスター」
横隣りのソファに腰掛けながら警戒心の抜けきらない顔でセイバーは尋ねた。
昼時のワイドショー番組を漫然と眺めながらキャスターは湯呑を傾ける。
いまいち距離感が掴めなかったセイバーが場をもたせるために淹れたお茶だった。
キャスターは崩した姿勢で背もたれに身を預け、思い切り十影宅のリビングを満喫していた。
「あちち。円卓の騎士様に淹れてもらったお茶と聞くとこのお茶もなんだか立派なものに思えてくるね」
「茶化さないでください!」
「だぁかぁらぁ、本当のことだってば。せっかく貰ったものを無駄にするのは気に入らないし。
そしたら栗野のお嬢ちゃんが『典河の飯は美味い』って言ってたの思い出してね。これ幸いと押し付けてみただけだよ。
食事を作らせてる相手に不義理なんてしやしないから、そんな怖い顔で私を見るのはやめなさいって」
そう言ってキャスターは口を窄めてお茶に息を吹きかけ、軽く冷まして口に含んだ。
「……………」
このようにきっぱりと言われるとセイバーとしてもそれ以上追求しづらい。
無理に問い詰め続けて狭量を笑われるのも癪である。むう、と唸ってからセイバーはソファに腰掛け直した。
「………分かりました。確かにテンカの作る食事はきめ細やかな気配りがあって美味なのは事実です。ひとまずそれで良しとしましょう」
「へえ。随分自分の主人に大事にされてるみたいじゃない。もしかしてもうそういう仲なのかな?」
「………!キャスター!」
「んふふ」
流し目を送ってキャスターが微笑む。キッチンではじゅうじゅうと油の喝采をあげて跳ねる音が鳴っていた。
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