③
「………」
「………」
最早想定通りだった玄関での睨み合いにいちいち付き合うのも面倒くさく、俺は土足からスリッパに履き替えて館内に上がる。
「セイバー。いいから通してやってくれ。キャスター。あんまりセイバーをからかわないでくれよ」
「典河にそうきっぱり言われちゃったら仕方ないかな。はいはい、分かったよ」
お洒落な装いのショートブーツを脱いでスリッパに履き替えるキャスターをじろりと一瞥したセイバーはすぐさま俺へと食いかかってきた。
気持ちは分からないでもない。甘んじてその受け答えに応じることとする。
「テンカ!!どういうことだ!!あの毒婦めをこの家に上げるなど!!」
「どういうこともなにも、キャスターは確かに困っていたんだ。それを見てみぬふりをするのも、なんだろ」
「………っ、た、確かに!テンカのそういった部分はひとつの美徳でもあるがっ!相手はキャスターだぞ!?」
「だぞって、まぁ分かるけどさ………」
基本的にセイバーはキャスターと折り合いが悪い。いろいろあった間柄なのはさておいても性格面からあまり噛み合わない。
キャスターの方からは嫌っているということもなさそうなのだが………。
玄関先でやり取りしていた俺たちへキャスターが面白い芸でも見るかのような目で見ていた。
「おーい。盛り上がってる所悪いけど、もう奥へ進んでいいかい?」
「あ、ああ。突き当たりまで行けばリビングだからそこで待っててくれ」
「テンカ!」
「大丈夫だってば。キャスターは食材を持ってきてくれただけだ。何か企んでいるとかそういうことはない………と思うよ」
保証はし切れない。キャスターは笑顔の裏であれこれ良からぬ画策をするのが好きなタイプなので。
とはいえさすがに大丈夫、だろう。我が物顔ですたすた廊下を歩いていくキャスターの背中を見ながらセイバーが溜め息をついた。
「………納得はしていないが………。やれやれ、テンカはキャスターへ妙に甘いところがあるからな………。
ふーん………ふーん………ふたりで食事の約束なんかして………仲が良くてなんとも結構なことだな………?」
「そんなことない。そんなことないぞ。本当だぞ。すぐお昼作るからセイバーも待っててくれ」
じっとりとした半目の視線をセイバーに向けられてはそそくさと退散する他ない。
キャスターから貰った紙袋片手に廊下を足早に通り抜ける。
うちのキッチンはリビングと一体になっているから自然と既にリビングで寛いでいたキャスターの姿も目に入った。
ソファに腰掛けて勝手にリモコンでテレビもつけちゃって、もう完全に我が家状態である。自由人な彼女らしかった。