kagemiya@なりきり

十影さんちの今日のごはん / 34

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「」んかくん 2020/12/26 (土) 01:17:52


「それ、全部やったらやっぱりそれなりの時間がかかるんじゃないか?」
「………大丈夫。大丈夫だ。すぐ出来るものしかない。全然時間なんかかからない。そう、15分か20分はかかった内に入らない」
はあ、と溜息を付いたセイバーはどうやら呆れたようだった。あのねテンカと諭すように話を切り出した。
「どうせこうなるとは思っていたんだ。君はそういう人だからね。
 そもそも私はクリスマスという催しには縁が無いし実感も無い。ただ皆が祝っている。幸せそうな催事だ。それだけで私にとってはいいんだ。
 でも案の定君は食事している時以外は働きっ放しじゃないか。私はね、テンカ。………君にも楽しんでほしいんだよ、祝いの席を」
「………セイバー」
軽く俺より先に進み出たセイバーが俺の顔を覗き込むようにじっと見つめてきた。
最初にあったときからずっと変わらない、涼やかな静謐を帯びた瞳が暗闇の中できらきらと光って見えた。
俺はいつだってこの目と視線が合うとどきりとしてしまうのだ。多分、これからもずっと。
「私の望みは間違っているかな、テンカ」
「いや、セイバーは正しい。確かに料理を運んだり片付けをしたりで俺は皆の輪の中にいなかったな。
 でもひとつだけ訂正させてくれ。俺は楽しくないなんてことは無かったよ。俺の作ったもので皆が笑ってくれていた。
 そういうのはなんというか、好きなんだ」
「はあ。やれやれ。そうだね、君はそういう人だよ。分かった。酒の肴を作るのは私も手伝う。セイバーは向こうで楽しんでいてくれ、なんて言わせないからね」
「了解。それじゃよろしくおねがいします、と言っておこうかな」
くすくすと互いに笑い合う。その視界の中に白くちらつく何かが見えた。
「あ………」
「雪、降ってきたんだね」
空からはゆっくりと眠たくなるような緩慢さで雪片が地上へと舞い降りていた。
そういえば天気予報でも夜中から雪が降るかも、とか言っていたっけ。ホワイトクリスマスなんて何年ぶりだろうか。
視線を前へと戻すと、点々と続いている街灯が雪を照らし出してくっきりと陰影を作り上げている。映画の中にいるみたいな、どこか幻想的な光景だった。
それを見て、俺はようやく思い出したのだ。
「そうだ、セイバー。まだ伝えてなかったことを思い出した。乾杯の時にも言ったけど面と向かってはまだだったな、って」
俺は立ち止まった。数歩先に進んだセイバーも立ち止まってくるりと振り返る。
セイバーは丁度街灯の真下にいたので、まるでスポットライトを浴びているみたいに暗闇の中で美しく佇んでいた。
「メリークリスマス、セイバー。
 こんな俺だけど、これからも一緒にいて欲しい。来年もよろしく………って言うのは、ちょっと早いけどね」
世界中の何よりも美しい拵えの剣がきょとんとした表情をしたのも束の間。
くすりと、キキョウの花のようにゆったりと微笑んだ。
「───メリークリスマス、テンカ」

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