②
「どういうこと?」
「うーん。話だけは単純なんだよ。たまたま知り合った老婆がいてね。
夜はまだ冷えて老骨に染みるっていうからさ。気まぐれに膝掛けを織ってやったのさ。
そしたらお礼にって畑で栽培している野菜を山程貰っちゃってさ。だいたいはマスターに押し付けたんだけど、さて残りをどうするかってね」
「………それで、なんで俺のところに来るんだ」
「君、大家族のお母さんでしょ?これあげるから何か適当に作って食べさせてよ、お母さ~ん」
「誰がお母さんだよっ!?」
言い返すがキャスターは悪びれもしない。いつもの怪しくて甘ったるい笑顔を浮かべながら俺の片腕に抱きついてくる。
このサーヴァントはこうすれば俺が断らないやつだと知っているのだ。そして俺は断れないのだ。いつも最後の一線で甘やかしてしまうのだ。
気質は違うがどことなくキャスターが流姉さんに似ているからかも知れない………。
おおげさに溜息つきながら俺はくすくすと俺の横で微笑むキャスターをじろりと睨んだ。
「でも、意外だな。あんたそういうことするんだね。無償でそんなふうに他人へ膝掛けをプレゼントするなんて」
「ふん。今でもあのばか女神より私のほうが機織りの腕については優れてるとは思ってるけど、私は元を正せばただの町娘だからね。
こんなの珍しいことでもない。織られた生地は誰かに愛でられることで価値が生まれるもの。渡す意義のある相手には相応に振る舞うよ」
「へえ………」
こと機織りに関する話になるとキャスターは独特の表情を浮かべる。
漂わせる怪しげな印象はそのままに、真剣で余人の意見を寄せ付けない強い意志をほんの微かに覗かさせる。
それはいわば職人の矜持というやつなのだろう。正直こういうキャスターは嫌いではない。
もしここに機織りの女神―――アテナがいるとしたら、俺はきっとキャスターの肩を持ってしまうはずだ。
「………分かったよ。この獅子唐を使ったありあわせのものでいいなら作るよ。
ただし、その代わりセイバーとは仲良くしてくれよ。俺の家の敷地内で乱闘なんて御免だからな」
「はいはい。家主の言葉には従っておくよ。セイバーとだってきちんと仲良くやるさ。
ま、向こうがその気なら別だけど………その時は典河がちゃんとセイバーを宥めておくれよ?」
「善処します………」
セイバー、キャスターのこと苦手っぽいからな………。
思わぬ珍客を引き連れて旧土夏のアーケード街を行く。
途中、美人を連れて歩く俺へ突き刺さる商店街の皆様の視線はあえてひたすら無視することとした。