⑤
「便利だよねこれ………」
「ハンドプロセッサーのこと?ひとつあると何役もこなしてくれるし、あれこれ使わなくていいから洗い物も減るし、楽だよ」
「ふーん………わたしも買おうかな………」
なんて喋っている間にもボウルの中には綺麗に混ざりあった液体がひとつ出来上がっていた。
スプーンで少しだけ掬って味を確かめてみる。もう少し甘くてもいい気もするがこんなものだろう。
代わりに料理用のラム酒をほんの少しだけ加えて軽くかき混ぜておいた。
「はい、出来上がり」
「え?これで終わり?」
「調理の工程自体は。後はこれを凍らせて固めるだけだよ。ちょくちょく取り出してかき混ぜる必要はあるけど。
これから夕飯だって作らなきゃいけないんだ。そんな時間のかかるようなもの作れないよ」
やや気の抜けたような棗へそう答えながら俺はボウルにラップで蓋をして冷凍庫の扉を開けた。
傾いて零れたりしないよう、平衡を保たせてしっかりと安置する。
ひとまずこれであのスイカを無駄にしなくて済むだろう。流姉さんもこれなら文句は言わないはずだ。
「よし、これでいい加減にして夕飯の用意を始めないと………ん。どしたの」
「………あ、あのね。てんかくん」
冷凍庫の扉を閉じて振り返ると、棗がそのままそこに立っていた。
両手の指を体の前で組み合わせ、何か言い出しにくそうにもごもごと唇を震わせている。
その視線がちらりと上を向き、見下ろす俺の視線と絡み合った。
「てんかくんはなるべく自分で出来ることは自分でやりたいのは分かってるんだけど………。
この後もわたしが手伝っちゃ………ダメ、かな………?」
俺より一回りばかり小さな背丈の棗が上目遣いで俺の顔色をうかがうように言った。
見つめられているといたたまれないような、くすぐったいような、そんな変な気持ちになってくる。
なんだか俺が悪いことをしているみたいだ。むず痒くなってきた頬を指で掻きながら、しかし答えは決まっていた。
他ならぬ棗にそう言われてしまったら、断るより頷く理由の方が大きくなる。
「―――うん。助かるよ棗。その、ありがとう」
「………ふぇ」
俺としては特別な素振りで言ったつもりはなかった。
けれどそれを聞いた、いや見た棗は急に目を丸くし、それから落ち着かない様子で視線を明後日の方向へ向ける。
こころなしか動きもぎくしゃくとした。油の差さっていない機械みたいだ。
「ま、任せて!大丈夫だよ!なんでもするよ!何でも言ってねてんかくん!………あー、びっくりした………」
「う、うん。ありがたいけど………なんでびっくり?」
「えっ!?いやその………こっちの話だから!気にしないで!」
両手を顔の前で振って必死で話題を遠ざけようとする棗。
結局最後まで何のことか分からないまま、俺はピーラーとジャガイモを棗に渡したのだった。
季節は真夏。1分1秒でも長く世界を熱しようと踏みとどまっていた太陽がようやく沈みかけて、窓の外には宵闇が忍び寄ろうとしていた頃のことだった。