②
「流姉さん、ついこないだ『やっぱり暑い夜のビールは最高ね!夏はこうでなくちゃ!』とかなんとか言ってたじゃないか。
で、買ってきた枝豆を全部ひとりで食い尽くして。………それより食後のデザートが出来たんだけどみんなで食べないか?」
「あ、てんかくん」
おさげにした三つ編みを尻尾のように揺らして軽く振り返った棗が俺を見て微笑んだ。
彼女の前でゆっくりと器の中身を崩さないようにお盆を床へ置くと、何も言わずとも他の3人へとデザートを回すのを手伝ってくれた。
花火セットの内容物を確認していたセイバーと百合先輩や、セイバーが送風機の役割を放棄したので自分で団扇を仰いでいた流姉さんも続いてこちらを向いた。
「へぇ、アイスクリーム?てんちゃん気が利いてるわね~」
「残念。ジェラート。アイスクリームと大差は無いけどさ」
「………ああ、夕飯を作る前から何か余所事をやってるなと思ってたけどこれだったんだね」
さすがに自分でも料理をやる百合先輩はそれだけでおおよその工程が頭に浮かんだらしい。合点が行ったというように呟いた。
俺が一番端に座っていた棗のさらに奥へ腰掛ける頃、気の早い流姉さんはもうスプーンを咥えていた。
「わお、つめたーい!暑い時に食べる冷たいものはやっぱり最高ね!」
「………む、本当ですね。この香ばしい香り………コーヒー味ですか、テンカ」
「インスタントコーヒーを混ぜただけなんだよ。何を入れても違った味になるし楽しいよね、ジェラート」
ぱくぱく食べてしまう流姉さんと違いセイバーは一口ずつ丹念に味わって食べようとしてくれる。綻ぶ表情が稚気に富んでいて少し嬉しい。
みんなに器が行き渡ったのを確認して、さぁ俺も食べようとスプーンを握った時だった。ふと流姉さんが急に思い出したようにぽつりと呟いた。
「そういえば前にもこんなことあったわよね。暑い夏の日に、急に食後のデザートだってこういうの出してきて」
「え?前っていつ頃の話なんです?流さん」
「てんちゃんたちがまだ中学生の頃だったかしら。そうそう、なっつんも一緒にいたわ。私が連れてきたからだけど」
「………ああ」
という声が喉から漏れたのは俺だけではない。全く同じタイミングで棗も発していた。
確かに、そんなことがあった。別に何か特別な転機だったとかそういうことは全く無いが、今でも覚えている。
「ちょうど日にちも今と同じ頃だったっけ?あの時は確かね―――」
頼んでもいないのに流姉さんがぺらぺらと昔話を喋りだした。
窓をあちこち開け放っているせいで吹き抜けていく風が、縁側に吊られている風鈴をちりんと透明に鳴らした。