①
時に土曜日。学校は半ドン。セイバーひとりが待つ我が家への帰宅途中。
さて昼餉は何にするかと考えながら旧土夏のアーケード街へ差し掛かった頃であった。
「やあ典河。いい日和だねぇ。ご機嫌麗しゅう~」
「げ」
本人が言う通り、ピーカンの青空の下。どちらかといえば曇り空の似合いそうな女がにこにこと俺に笑顔を振りまいていた。
この女性もすっかり現代に馴染みきって、ニット生地ののタートルネックにフレアスカートの出で立ちでは最早ただの超美人である。
俺がアーケード街へ踏み込んだ途端するりと路地から現れたので待ち受けていたのは明白だった。
「………何だよキャスター。俺に何か用か?」
「げ、とは失礼だね~。そんなに邪険にしないでよ~。あんなことやこんなこともした私と君の仲でしょ~?」
「そんな覚えは!………いやちょっとあるけど!だいたいは無い!」
そそくさと俺の間近に擦り寄ってきて怪しげな笑みを浮かべながら俺の胸板に指で円を描くので慌てて1歩飛び退いた。
キャスターがとんでもなく美人なのは間違いないもんでつい顔が熱くなってしまう。
用事があろうがなかろうがキャスターは俺に対してこんな調子だった。絶対俺をからかって遊んでいるのだ。どして。
「ほ、本当に何の用だよ。何にもないんなら行くからね。帰って昼飯の用意もしなきゃいけないんだから」
「あー………うん。実を言うと、その話なんだよね」
「は?」
意味が分からない。キャスターと俺の作る昼飯に何の因果があるというんだ?
珍しく眉を寄せて困った顔を作ったキャスターが、まずはこれを見てくれ、と手提げ袋の中身を広げてみせた。
無視するのもなんなので促されるままに袋の中をおそるおそる覗き見る。
キャスターのことだから何かおどろおどろしいものが入っているのかと思いきや、それは予想外の物品だった。
「………獅子唐?」
「というらしいね。私は見たことも聞いたこともなかった野菜だから名前だけしか知らないけど」
そこには青々とした見事な獅子唐がビニール袋一杯に詰まっていた。
俺の中では疑問符が立て続けに並んでいく。キャスターと獅子唐。なにひとつ接点が結びつかない。
キャスターはかつては神域の機織り手というだけで身分としてはただの村娘だったというが、それでも畑を耕していたなんてことは聞いたことがなかった。
ついぽかんとして目の前のキャスターと見合わせてしまう。