kagemiya@なりきり

十影さんちの今日のごはん / 17

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「」んかくん 2020/06/30 (火) 21:02:22


「というわけでセイバー。これかき混ぜていてくれ」
「うん。任せてくれ」
「捏ねちゃ駄目だよ。しゃもじで切るようにね。全体に馴染んだと思ったら団扇で扇いで冷ますんだよ」
「分かった。テンカのため最善を尽くそう」
そうしてお願いすると真剣な表情で一生懸命寿司桶の中のお米を混ぜっ返してくれる、そんなセイバーが俺は好きだ。
酢飯は最優の騎士がきっと完璧に仕上げてくれるはずなので俺はそれ以外の作業に取り掛かった。
家に帰って手を洗いエプロンを装着する最低限の身支度をした俺がまず最初にしたのはマグロの柵をサイコロ状にカットすることだ。
漬ける時間が必要なので昼食に間に合わせるにはこの工程は急がないといけない。
ボウルに醤油とごま油を注ぎ、少量の砂糖を加えてよく混ぜ合わせる。このタレにカットしたマグロを放り込んでラップをしたら冷蔵庫へ。
ここまでがセイバーに酢飯制作を頼む以前に駆け足で片付けた工程。とはいえ、ここが肝心要なので後の作業はそう多くない。
俺が冷蔵庫の野菜室から取り出したのは洋梨のような形をした真っ黒い果実だった。
「トエー、それなぁに?」
尻尾1本動かすのも億劫という様子のリリスを抱きかかえて撫で回しながら調理の工程を見ていたニコーレが小首を傾げた。
その目の前で黒い果実へ縦に割るように包丁を入れる。さしたる抵抗もなく身の中心付近まで刃は通った。
「アボカド。というか、ニコも何度か口にしたことあるはずだよ。サラダに混ぜて食卓に置いた覚えがあるから」
「ふーん?あったような、無かったような」
「近頃は安くなったね。昔はもっと高かったような印象があるよ。美味しい上に栄養価も高いものだからありがたい話だ」
半信半疑というニコーレの視線を浴びながら包丁をぐるりと一周。
軽く切れ目を捻ってやれば熟しているのですぐに真っ二つに分かれる。断面の中央には特徴的な大きな丸い種。
その種に包丁の角を突き立てて揺すれば種は自然と身から抜け落ちた。
後は切った実から皮を摘んで剥いてやり、マグロと同じようにサイコロ状にカットすれば下準備は終わり。
表面が変色しないようにレモン汁を軽く振りかけ、使った調理器具や炊飯器の釜を片付けていれば20分ほど経過するのなんてあっという間だった。
即ち、冷蔵庫に保管しているマグロの身が良い塩梅に浸かる頃合いである。
「テンカ、こんなものでどうだ。均一に酢が行き渡り米が美しく輝いていると思わないか」
団扇で酢飯に風を送っていたセイバーがやや自慢げな表情で言った。なんだか可愛い。
「うん、大丈夫。完璧だよ、ありがとうセイバー。さて、じゃあ盛り付けちゃうか。
 ニコ!そろそろご飯できるよ!手を洗って食卓についていて!」
振り返って声をかけるとはぁいと間延びした返事がリビングの方から返ってくる。
片付けを始めたあたりでキッチンの様子を観察するのも飽きてテレビを見ていたらしい。
丼を用意するとまず冷蔵庫で漬けていたマグロを取り出した。ボウルにアボカドも入れ、軽く和える。
そうしたら丼にセイバーが丹精込めて作ってくれた酢飯を敷き詰め、マグロとアボカドの混合物を乗せていった。
卵を冷蔵庫から3個取り出してそれぞれ割り、黄身を潰さないよう慎重に白身と取り分ける。
まるきり白身が余ってしまうわけだが………これはこれで捨てずにニコーレの喜びそうなお菓子でも後で作ろう。
乗せたマグロとアボカドの上に黄身をひとつずつ、クリスマスツリーの頂点に星を飾るのと同等の緊張感を以てそっと置く。
あとは煎り胡麻と短冊状にカットした海苔、予め刻んでストックしてある万能葱を適量振りかければ―――。

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