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そう言ってセイバーはいそいそと冷蔵庫から目当てのビニール袋を見つけ出すと俺の隣でレタスの葉を綺麗に磨き出した。
険しさこそないものの顔つきは真剣そのものだ。俺はといえばセイバーと隣り合ってこうして調理していることに妙なくすぐったさを感じていた。
「………いけない、いけない………」
セイバーは真面目にやっている。変な邪念を覚えている場合じゃない。
フライパンを取り出してベーコンをその中に並べた。予熱は不要だ。こうして常温からじっくり弱火で焼くのがコツだ。
ガスコンロの火加減を最小に設定し、同時にトースターへ食パンのスライスを4枚突っ込んでスイッチを押す。
手を休めること無く冷蔵庫からトマトを取り出した。まな板の上で適当な大きさで輪切りに。
カットしたトマトはキッチンペーパーを敷いたトレイの上へ載せ、塩と胡椒を軽く振っておく。
こうすることで塩がトマトの余分な水分を出してトマトの味わいをより濃厚にしてくれる。ちょっとした、だが重要なひと手間だ。
続いてソース作りに取り掛かろうとして何気なくフライパンを見たところ、想像以上のことについ驚きの声を上げてしまった。
「凄いな、もうこんなに油が。普通のベーコンじゃこんなに出ないのに」
「分厚い脂を切り取って水で煮ることで獣脂を得るというようなこともかつてはしていた。特に今は秋だからたっぷり脂を蓄えている時期だろう」
一滴の水分も逃さないという目つきでレタスを拭っているセイバーがこちらを見ずに言う。
ふぅんと感嘆の溜息を漏らしながらベーコンから溢れ出た油をキッチンペーパーで拭って吸いあげる。
こうしておかないと、ベーコンから出た油が高温になってせっかくのベーコンが焦げ付いて台無しになってしまうのだ。
危ないところだったと胸を撫で下ろしながらベーコンの表裏をひっくり返し、改めてソース作りに取り掛かった。
小鉢にマヨネーズを絞り出したら醤油を加え、さらにチューブのわさびを絞り出してスプーンでよく混ぜる。
ソースにむらが無くなった頃、チンと小気味良い音を立ててトースターが食パンの焼き上がりを告げた。
「あちちっ」
「テンカ?」
「いや大丈夫」
指先を火傷しそうになりながらトースターから食パンを取り出し、まな板の上へ。
食パンがまだ熱いうちに無塩バターをバターナイフで薄く塗り伸ばしていった。
バターを塗るのはパンをより美味しくするためだけじゃない。油脂の膜を作ることで水分量の多い具材でパンがふやけないようにするという目的もある。
ここまで来たら後は挟むだけだ。セイバーらしい几帳面さで等間隔にトレイに並べられた瑞々しいレタスに俺は手を伸ばした。
食パンの上に置いたレタスの上にソースを塗り、後はトマト、ベーコン、再び食パンの順に挟む。なるたけ水分にパンが触れさせないようにするのが鉄則。
爪楊枝を突き立てて挟んだ具材を固定し、そのまま包丁でざっくりと三等分にした。勿論切ったら爪楊枝は抜いておく。
同じことをもう一度繰り返し、それぞれを2枚の皿に盛り付けた。なんとなく雰囲気を出したくてポテトチップスの袋を開けて付け合せに何枚か添えておいた。
「………よし。これで完成」
「おお。では」
「ああ、早速食べてみよう」
食卓に皿を2枚。セイバーと向かい合わせに置いて座った。
家の中は他に誰もいないので俺たちが立てる音しか響かない。なんでもないことのはずなのに、なんだか特別な空気感だった。