kagemiya@なりきり

第五次土夏聖杯戦争SSスレ / 60

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 それから、二人で一緒になって子猫を埋めてやった。と言っても、後は上からは土をかけてやるだけだから、それまでのお兄さんの苦労と比べればさしたる手間でもない。
 それでもそれなりに時間はかかって。気づいた時には夕日は沈みきって、辺りは薄暗くなっていた。それまで二人共、何も話さなかった。
「ごめん、こんな時間まで。親御さん、心配してるよな」
 そんな彼の言葉を、私は取り立てて否定しなかった。それをすると、美しいと思えた今までの時間が、全部台無しになるような気がしたから。
 それでも、家まで送ると言うお節介は固辞して、公園の出口で逆方向に別れる。
「また―――」
 また、会えますか。なんて。そんな言葉を口にしようとして、尻すぼみに声は途切れる。それをただの別れの挨拶と捉えたのか、
「うん、それじゃあ、また」
 それだけ口にして、お兄さんは自分の方向へと歩み出す。きっとそんな機会は訪れないだろうと、お互い分かっている。別に示し合わせて再会するほどに、仲を深めたわけでも無い。互いに名前だって知らないのだ。
 けれど。もしも。また、会えたのなら。その時は、もう少し話がしてみたいと思った。

 陽光の中、桜並木を歩く。周囲は穏やかな賑わいに包まれている。三年間を終えて、また新たな三年間へ。歩みは一定に。この暖かさを、何処かで空々しく感じている。
「――――――」
 不意に、すれ違った誰かを知っている気がした。
「あのっ……!」
 呼び止めて、振り返った顔は。いくらか精悍になったけれど、綺麗なままだった。
「えっと……」
 その人は、困ったような表情で固まっている。
 ああ。そんなのは、分かっていたことだ。あんな、一時間にも満たない時を、お互いに後生大切にしているだなんて。そんな風に信じられるほどに、私はロマンチストではいられなかった。
「……いえ、人違いだったみたいです」
 失礼しました、先輩。とだけ続けて、それからもう振り返らず、歩みに戻る。
 これは、始まらなかった関係。初恋にもなれなかった何か。私の心は今も、緩やかに死地へと向かっている。

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