kagemiya@なりきり

第五次土夏聖杯戦争SSスレ / 58

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共通シナリオ『幕開け(routeB-3)』3/3 2020/08/07 (金) 01:27:03

『ごめん、黒瀬!ランサーに突破された!』
黒瀬の頭の中にキャスターからの念話が届いた。
『ああ、目の前にいる』
『……今すぐ行くから逃げて』
黒瀬のあくまで落ち着いた言葉に、キャスターが低い真剣な声を返す。
『向こう次第だな』
「……キャスターのマスター」
ランサーと相対する黒瀬に、百合を左手で抱えたランサーが声を掛ける。
真っ正面にいるのに仕掛けないという事は少なくとも殺意はないのか。
「なんだ」
「マスターとの会話は聞いていた。退くのならば目を瞑ろうと言っていたな、あの言葉に二言はないだろうな」
ランサーは話ながらも槍を構え、周囲の気配を油断なく探る。
キャスターが追い付いてくる事を想定、或いは第三勢力を警戒しているのか。
それは、ランサーが戦い慣れた戦士である事を物語っていた。
「ああ、言った。そして二言も追撃もないと約束しよう」
キャスターが来るまで時間を稼げば意識を失った百合を庇い続けるランサーを倒せるか、痛手を負わせられるだろう。
だが、それは黒瀬の本意ではない。
「……では退かせてもらう」
ランサーは槍を仕舞い、百合を両腕で抱える。
「待て。ランサー、栗野に伝えろ。……次はない、と」
「……確かに」
黒瀬の言葉に頷いたランサーは振り向くと闇の中へと消えた。
『ランサーは撤退したぞ、キャスター』
『見てたから知ってるよ、でも良いわけ?』
『ああ、構わない』
『ふーん、ま、私は別に良いけどね。しばらく霊体化して周囲を見て回っとくね』
「ああ、頼む……ふーっ」
黒瀬は大きく息を吐いた。
よりにもよって生徒に聖杯戦争の参加者がいるとか悪い冗談にも程がある。
ああ、気が抜けたら肩が痛んできた……。
思わず空を見上げる。月と一番星が煌々と夜空に輝いていた。

「っ……ここは……? 私は確か、黒瀬先生と……」
百合が意識を取り戻したのは自宅のベッドの上だった。
自分は黒瀬からの一撃を受けて意識が飛んだ、そこまでは覚えている。
「マスター、意識を取り戻したか」
いつの間にか百合の傍らにランサーが立っていた。
「ランサー、私は……」
意識がはっきりしない。百合は思わずランサーに問い掛けた。
「………はっきり言おう。マスター、君は負けた」
「……は? 何を言ってた」
「正確に言えば見逃された、か。キャスターのマスターから言伝てを預かっている。……次はない、と」
「私は……負けたの?」
「ああ、奴(の教師としての恩情)に感謝するがいい。君は戦うに値しないと思われたか……(或いは彼が教え子と戦いたくなかったのか)」
「…………」
「マスター、(良い機会だ)今一度戦う理由を見つめ直すが良い(そうすればもう一度戦う理由が見出だせる筈だ)」
「………………ごめん、ランサー。一人にして」
「分かった……休むが良い(君ならば必ずもう一度立ち上がれる)」 
「父さん……私は……」

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