幕開けrouteB-3
内容:
黒瀬視点、百合と黒瀬がお互いの正体を知る。
分岐条件:
黒瀬がキャスターと調査資料を擦り合わせ、栗野家が土夏のセカンドオーナーと言う確信を得る。
「……ああ、全く。 今日は本当に運がないらしい」
蜘蛛を従えた黒頭巾は溜め息を付くとウィンドブレーカーのフードを外した。
「黒瀬、先生……?」
百合の顔が驚愕に歪み、魔術師栗野百合からただの栗野百合へと変わる。
そこにあった顔は百合も見慣れた物だった。
いつものようにどこか曖昧な笑みを浮かべて印象に残らない姿ではない。
黒一色の装束に身を包んだ、裏の世界の住人黒瀬正峰がそこにはいた。
「先生、なんで……まさか、アサシンに」
「違う。無理矢理何も分からないままこの戦いに参加させれている……。助けてくれ。……とでも言えば良かったかね?」
黒瀬はどこかすがるような百合の言葉をはっきりとした口調で否定する。
「残念だが、私は……いや俺は俺の理を持って俺の意思でこの戦いに参加している」
周囲にいた蜘蛛が下がり、闇の中に姿を隠す。
「知らない仲ではない。退くなら今日は目を瞑ろう。戦うなら全力を持って相手をしよう」
黒瀬が言葉を区切り、百合は息を呑んだ。
空気がひりつく。まるで炎の前に立っているように皮膚がちりちりとする。
聖杯戦争、これが生と死のやり取りの場に立つと言うこと……百合は思わず拳を強く握り込んだ。
「だが、そのどちらも選べない、選ばない。
或いは別の答えも持っていないというのであれば……君は、今日脱落する」
そこで黒瀬は短刀を鞘から抜き払い、百合へと突き付ける。
それは百合の覚悟を確かめるかのようにも思えた。
一瞬、百合の目が揺れ動く。
ランサーは黒瀬のサーヴァントに足止めされているのだろうか。
「ランサーは来ない、俺のサーヴァントが足止めをしている」
黒瀬は白刃を振りかざし、百合へと飛び掛かる。
「くっ……サルビア!Prune-pyr!」
牽制に百合より放たれたそれは破壊に指向された純然たるエネルギー。
黒瀬は横飛びにそれを避け地面を一回転すると、伏せたまま再び百合へと視線を向ける。
肩先が掠ったのか、ウィンドブレーカーに穴が空いていた。
(掠っただけでこれか、牽制程度なのに大した威力だ。流石は土夏のセカンドオーナー、魔術師としては一級品だな)
黒瀬はズキズキとした肩への痛みを表に出さず、ゆっくりと立ち上がる。
やはり、真っ正面からは分が悪い。